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“できる”を育てる看護教育デザイン――GOLDメソッドから始める実践につながる教育
第1回 「教えたのにできない」はなぜ起こるのか ――GOLDメソッドで変わる看護教育
- #教育手法
- #インストラクショナルデザイン
- #思考の可視化
- 2026/07/21 掲載
- 2026/07/21 更新


「教えたのにできない」その理由とは?
「何度説明しても実践につながらない」
「学生が自分で考えられない」
「報告の内容がまとまらない」
看護教育や新人教育に携わっていると、このように感じる場面は少なくありません。
実習で「患者さんをよく観察してきてね」と伝えても、学生はバイタルサインの数値だけを記録して戻ってきます。新人看護師に「優先順位を考えて行動してね」と指導しても、目の前の業務に精一杯で、その理由を説明できません。「報告は簡潔に」と教えても、必要な情報が抜けたり、話が前後したりすることがあります。
こうした場面に出会うと、「最近の学生は考えない」「新人の力が落ちているのではないか」と感じることもあるかもしれません。しかし、本当にそうなのでしょうか。
私は看護教員として学生を指導するなかで、「教えたはずなのに、なぜできないのだろう」と悩んできました。そして、あるとき気づいたのです。もしかすると、私たちは“何をするか”は教えていても、“どう考えるか”は教えてこなかったのではないか、と。
たとえば、経験豊かな看護師は患者さんの病室へ向かう前から、「今日は呼吸状態に変化はないだろうか」「昨日より浮腫は強くなっていないだろうか」と予測しています。病室に入った瞬間には、表情や姿勢、呼吸の様子、ベッド周囲の環境などを自然にとらえます。そして必要な情報を集め、「今、この患者さんに何が起きているのか」「今、いちばん大事なことは何か」を考えながら行動しています。
こうした熟練者の思考は、長年の経験によってなかば無意識に行われています。そのため、「どうしてそう判断したのですか」と尋ねても、「経験かな」「なんとなくわかる」と答えてしまうことがあります。
一方、学生や新人にとって難しいのは、この“なんとなく”の部分です。
「よく観察する」
「ちゃんと考える」
「優先順位をつける」
これらは大切な言葉です。しかし、具体的に何を見て、何を考え、どのように判断しているのかがわからなければ、実践につなげることはできません。
そこで生まれたのが、インストラクショナルデザイン(より効果的・効率的・魅力的な学びを実現するための教育設計)を基盤に開発されたGOLDメソッド(Goal-Oriented Learning Design Method:ゴール達成型学習デザイン)です。
GOLDメソッドは思考の流れを言葉にして共有できるよう支援する
GOLDメソッドは、看護師が患者さんの状態をどのように捉え、何を予測し、どのように判断して行動しているのかという「臨床判断のプロセス」を学ぶことができる教育手法です。
単に正解となる行動を覚えることを目的としているのではありません。「今日は何が起こりそうか」「何か違和感はないか」「今、いちばん大事なことは何か」「相手が動けるように何を伝えるか」「次に同じ場面が来たらどうするか」と問いかけながら、自分の考えを言葉にしていくことを大切にしています。
GOLDメソッドでは、看護実践を6つのシーンとして捉えます。
シーン1 ナースステーションで頭を整える
シーン2 患者のところに行く
シーン3 患者に接する
シーン4 選択した看護を実践する
シーン5 看護実践の検証(報告・記録)
シーン6 振り返り
熟練した看護師は、これら6つのシーンを通して、患者の状態を予測し、観察し、判断し、行動し、振り返りながら、次の実践へと学びをつなげています。GOLDメソッドの特徴は、この思考の流れを言葉にして共有できることにあります。これまで「見て覚えるしかなかった看護」を、「考え方を学べる看護」へと変えていくのです。
たとえば実習では、患者さんのもとへ行く前に「今日は何が起こりそうか」を予測するだけで、学生の観察の質が変わります。演習では、「今、いちばん大事なことは何か」を問い直すことで、判断の根拠が明確になります。新人教育では、「どのように報告するか」だけでなく、「相手が適切に判断・対応するために何を伝えるべきか」を共有することができます。
実際に活用した学生からは、「先生がどこを見ているのかわかった」「考える順番が整理できた」という声が聞かれました。指導者からも、「感覚ではなく具体的に指導できるようになった」「学生との対話が深まった」といった反応が寄せられています。
「教えたのにできない」。
その背景には、学習者の意欲や能力だけではなく、教える側が“頭のなかのプロセス”を十分に言葉にできていなかった可能性があります。
教育は、センスや経験だけに頼るものではありません。
経験豊かな看護師の実践知を共有し、学習者がその思考の道筋をたどれるようにすることで、「できる人にしかできない看護」を「誰もが学べる看護」へと変えていくことができます。
GOLDメソッドは、「できる人の背中を見て学ぶ教育」から、「できる人の考え方を言葉にして学ぶ教育」へ転換するための実践的な教育手法なのです。
この連載では、GOLDメソッドを入り口として、学生や新人の「できる」を育てる教育の工夫を紹介していきます。特別な才能や経験がなくても、明日からの実習や演習、新人教育で実践できるヒントをお届けしたいと思います。
次回は、GOLDメソッドの特徴である6つのシーンについて、実際の教育場面でどのように活用できるのかを具体例とともにご紹介します。
●参考文献
・池上敬一:第4章 医療シミュレーションと教育工学.中山実,鈴木克明編著,日本教育工学会監修.職業人教育と教育工学(教育工学選書Ⅱ-15).ミネルヴァ書房;2016.639-689.
・池上敬一:看護学生・若手看護師のための 急変させない患者観察テクニック――小さな変化を見逃さない! できる看護師のみかた・考え方.羊土社;2018.
・岡本華枝:看護基礎教育における看護実践能力を身につけるためのゴールド・メソッド活用法.医療職の能力開発.2019;6(2):1-10.

