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北海道稚内高等学校
- インタビュー
- 2024/09/18 掲載
新教育課程がスタートして 2 年。改めて各校の取り組みについて伺ってみました。
各校の教育理念や教育実践の工夫を感じ取っていただけたら幸いです。
北海道稚内高等学校
色々な人の声を素直に受け止めて,
自分で考えていける人間性をもった看護師を育てたい
看護科科長
無量谷順子先生に聞く
北海道稚内高等学校の教育の特色について
―― まず,貴校における教育理念や教育方針について聞かせていただけますか。
無量谷先生 5 年一貫教育なので,「5 年間の連続した教育課程を前提に学習指導をする」ことと,「地域医療に貢献する」ことは,この地域にとってはとても大きい特徴です。
また,本校には普通科と商業科,定時制があり,学生間の交流や学校行事・部活動などが大変充実しているため,人間性の成長に期待できる部分があります。
看護だけに限らず,色々なものを通じて人間性を伸ばすことができる,そういう環境でもあるかと思います。
―― 土地柄的にはどうでしょうか。地方にあることの存在意義もあると思うのですが。
無量谷先生 そうですね。やはり名寄駅以北の唯一の看護学科なので,宗谷管内の医療を支える人材を養成するという役割はとても大きいです。
一方で周辺には本校しか看護師養成機関がありませんので,色々な部分で地域からの協力が得られるのも特徴です。
今,主な実習場所は市立稚内病院ですが,実習指導してくれる指導者には本校の卒業生がかなり多く,後輩を育てるという意識が強いこともあって,本当に我慢強く学生を見守ってくれています。
学生が興味・関心をもって頑張れる,そういう視点まで落とし込んだ実習をさせてもらっていると思います。
専攻科の学生ともなれば,看護科の実習よりも,もうちょっとこれができたほうがいいんじゃないか,これを経験させたほうがいいんじゃないかという病院側からの継続的なアプローチもいただきます。
そういうふうに地域から協力してもらえる環境であることは大変ありがたく,本当によい環境だなと思います。
学習指導要領・指定規則の改正に沿ったカリキュラムの工夫
―― 現行の学習指導要領・指定規則の改正に伴ってカリキュラムを作り直すことになった際,変更した点,工夫した点について聞かせていただけますか。
無量谷先生 従来のカリキュラムからがらりと変えたわけではないのです。
ただ,高校の段階から看護倫理を学ばせ,倫理観を十分持たせてから専攻科に進めることが必要になってきましたので,「看護倫理」の授業を看護科 3 年次に導入しました。
さらに「地域・在宅看護論」も 3 年次の授業に入れて,早くから地域や生活の場の多様性についてイメージした上で専攻科 1 年次に継続した形で学習を進められるように配慮しました。
また,看護科でも少し医師による授業を行っていたのですが,あくまでも基礎・基本を高校生に教えるときには,看護教員自らが手厚く,しっかりと授業をするようにしています。
専攻科 1 年次にさまざまな専門性をもった外部講師による講義を入れることは,継続しています。
講師は市立稚内病院の医師がほとんどです。
病理学は病理検査室から,薬理学は薬局から授業に来ていただいています。
地元で講師を確保するのはすごく大変なのですが,市立稚内病院と,宗谷管内唯一の大学である育英館大学からご協力をいただいています。
札幌方面から飛行機で来ていただいている講師もいます。
僻地だからこそ,専門性をもつ先生方に来校をお願いして,授業の内容を充実させる努力は継続して行っています。
―― 今回の指定規則改正で,「地域・在宅看護論」は基礎看護学の次に配置されました。
先ほど高校3年次から授業に組み込むとうかがいましたが,学生さんの反応はどうでしょうか。
無量谷先生 新カリキュラムの中の「地域・在宅看護論」の授業は 2024 年度の 3 年生からですが,1~2 年次でも色々な科目に在宅というキーワードが入ってきていますので,地域の中で人々は暮らしているということを具体的にイメージできるように展開しています。
また,病院に限らず自宅や施設などあらゆる場面で看護は行われているということを意識づけているため,それほど違和感はないでしょう。
看護の場面,医療の場面は,病院だけではなく,色々なところにある。その導入部を看護科で学習できれば,専攻科でのさらに専門的な学習につながっていくのではないかと思っています。
学年を超えた共同学習の効果
―― ホームページで紹介されている,高校 1~3 年次の共同学習は,どのような経緯で行われたものでしょうか。
無量谷先生 担当した教員がさまざまな学校の授業の取り組みに関心を持ち情報を集めるなかで,「少人数で効果的に学習させる」という点と,「人に教えるには,自分がわかっている必要がある」という点から,共同学習に注目しました。
上の学年には「下の学年に教えるためには,あなた方が勉強してきたことを理解し,ちゃんと身に付けているかが大事だから,そこをしっかり振り返ってみようよ」と話しました。
逆に下の学年は,自分たちの先輩に対しては教員が指導するときよりも緊張感をもって行動しますので,「次はあなた方が,先輩がやっているように後輩に教えるんだよ。だから聞いてわからないことは,ちゃんと先輩に聞くんだよ」と,次に繋げることも想定しながら伝えました。
今回,学年を超えた合同演習を実施して,かなり効果はあったと思います。
教える側はかなり緊張しながら準備をしたり,教わる側は先輩から教えてもらうなかで自分では気づかなかったところを学習ノートに追加したりと,お互いの刺激になっていました。
教員の準備はかなり大変だったようです。
グループ編成と段取りを整え,どういうことが起きるかを事前に想定しながら,演習をスムースに行うための準備にかなり時間をかけていました。
教員として,ただ一方的に教えるのではなく,学生たちのやりとりを見ながら調整したり,うまくできるようにどう助言したらよいのかアドバイスしたり,ラウンドしながら学生たちを見守る感じで入っていけました。
今回,学生同士の教え合いを大事にすることを前提に取り組み,学生の学びも大きかったと担当教員から聞いていますので,今後も継続して導入していけたらと思っています。
教材選定の基準と補助教材の工夫
―― 教科書や教材の選定において基準はありますか。こちらでは看護科から看護師養成課程テキストを使われていて,そのハードルの高さもあると思うのですが,どのような工夫をされていますか。
無量谷先生 まず文部科学省著作教科書がなくなるという背景がありましたが,いずれにしても 5 年間通して使う教科書であれば,看護師養成課程テキストの「系統看護学講座」を活用していきましょうという形で導入することになりました。
ただ,解剖生理学の教科書などは,やはり看護科 1 年次の学生には難しい漢字が多く,ふりがながふってあったとしても難解です。
低学年の学生が教科書を読むと,漢字がわかるかどうかという部分から手をかけなければいけませんので,ちょっと大変なところがあります。
そんなときに私は,別のサブテキストから資料プリントを作って説明したりしています。
あとは副教材や学習ノート,インターネット上の資料など,色々と活用しています。
看護科の授業に関しては,短時間でも学生にいかに集中させて,必要なことを乗り越えさせるかという工夫が必要になります。
「解剖生理学」と同じように,看護科 2 年次で「病理学」や「公衆衛生看護学」の授業もありますが,教えるときに何かイメージができるような資料を用意します。
アニメでなくても図やイラスト系の資料がないと,文字だけでは学生がついていけません。
昔の教科書と比べたら,カラーになって写真が入って,色々な工夫がされていますから,私にしてみればもう十分に贅沢な内容ではないかなと思うのですが,年々,イラストだけでは飽き足らず,動画でわかりやすく経過や変化が見えるもの,一つひとつどんなふうになるのかイメージできるものがないと,今の高校生には想像することが難しくなってきています。
―― 教材として雑誌は使われていますか。
無量谷先生 「プチナース」などの雑誌も色々活用しています。
私自身も「病理学」を教えるときには,そういう雑誌からピンポイントでわかるようなものを引用し,教科書で説明しながら「実際はこういうことなんだよ」と補足で説明します。
イラスト的な感じがわかりやすく,学生が興味をもって見る資料が雑誌には結構掲載
されていますので,うまく活用していくことになりますね。
ICT を活用した授業への取り組み
―― 授業ではオンライン上で資料を提示したり,配布したりするのでしょうか。
無量谷先生 学生は看護科 2 年次までにタブレットを購入することになっており,学校設備としてもスクリーンや Wi-Fi の環境が整っています。
教室ごとにプロジェクターが設置されていたら一番いいのですが,パワーポイントを使ったり,タブレットで YouTube 映像を見せたりすることはできるようになりました。
今言われている ICT を活用した授業の工夫というところに少しずつですが取り組んでいるところです。
―― 現在使っている教科書は冊子でしょうか。
無量谷先生 そうです。一部の教員の中では電子化の話をしていますが,看護科の学生が購入しているタブレットはスペック的に恐らく電子教科書への対応が厳しいかもしれません。
電子教科書ということになれば,タブレットのスペックも含めて検討しなくてはいけない時期が来るかもしれないですね。
―― GIGA スクール構想の推進で学生は 1 人 1 台の時代なのですね。
無量谷先生 どうしても無理な場合は学校から貸し出すこともあるのですが,ほとんどの学生は購入しています。
ただ,それほど安いものではありませんので,学校説明会のためにあちこちの中学校を回って保護者の方々と話をするなかでは,必ずタブレット購入という説明はしています。
タブレット購入は学生にとっても負担なのですが,5 年間ありますから,専攻科に上がったときにタブレットをより効果的に活用できると思います。
ペーパーレスにもなりますね。
学生は簡単に使いこなせてしまう世代なので,今後は教員側がいかにうまく使っていくかだと思います。
学生は紙ベースで調べることが面倒らしく,電子教科書だけではなく,スマホを使ってささっと調べているようです。これからはデータで調べる学習方法が主流になるのかなと思うこともあります。
学生のドロップアウトを防ぐ「かかわり」
―― 少し話題を変えて,無量谷先生の教育方針をお聞きするなかで,「かかわり」がキーワードかと感じました。横のつながりだけではなく,縦のつながりができることで,学生が深く学ぶことができたり,ドロップアウトしがちな学生を助けられたりするように思います。最近はドロップアウトされる学生が増えていると聞きますが,何か対策をされていますか。
無量谷先生 最初の頃はドロップアウトしそうな学生がいると,「看護師になるために入学して,看護師になるつもりなんだよね。だから頑張れるよね,頑張るしかないよね」という思いが大きかったのですが,今の学生の気質や環境を考え,他の先生方とも話をするなかで気づいたことがあります。
それは「看護師になるつもりで入学してきたとしても,たまたまそのときのちょっとしたことがきっかけだったかもしれない。入学してみたら,こんなはずじゃなかったと思うこともたくさんある」ということです。
実際,親に言われたからというような単純な動機やきっかけも耳にします。
なので,入学したからには「看護ってすごく大変だけれど,絶対に世の中に必要で,社会に貢献する仕事。すごく素敵な仕事なんだ」ということを少しでもわかってもらって,「そっかぁ。あまり興味がなかったけれども,ちょっと頑張ってみようかな」という意識変化をもたらすようなかかわりができればと思っています。
学生からの声をまずは聞いて,それはどういう意味なのか,どうしてそういうふうに思ったのか,学生の心の声をきちんと受け止めたうえで話を進めていくことが大事なのかなと思います。
その学生の思いを理解しながら,どんなふうにかかわっていくと学生が頑張れるのかな,ちょっとやる気になるのかな,と見つけ出していくしかないですね。
―― 無量谷先生がおっしゃる「やる気ボタン」でしょうか。
無量谷先生 はい,やる気ボタンです。そのボタンがすぐわかるように見えたらいいなっていつも思います。
やる気ボタンを探すきっかけとしては,やはり学生との関係性も大事ですし,また先生方との情報共有ですよね。
学生には色々な面がありますから,自分が見ている場面,他の先生が見ている違う場面があり,情報共有することによって,それら多面的な情報が集まってきます。
折々の状況を見て,この学生はこういうことはできるけれども,ここはちょっと難しいんだなとか,こういういい面もあるんだなとか,みんなで知ってあげることが大事なんです。
教員ごとにアプローチの仕方が異なるので,厳しい先生がいてもいいし,優しい先生がいてもいい。
一つひとつちゃんと根拠を言って説明していく先生がいてもいい。
ただ,学生の色々な特徴について様々な方向からの情報を共有し合って,「こういう場面ではこういうふうに私がやればいいよね」と教員の役割分担をうまく行うことが大切です。
教員の総合力で対応しています。
そうすると,学生にとっては「この先生だったら話しやすいから色々なことを言えるかな」と思ってもらえます。
窓口ができれば,学生が悩んでいて「もう無理」という段階の寸前に,ちょっとストップがかけられるのかな,と最近そんな気がしています。
色々な人の声を素直に受け止めて,自分で考えていける看護師を育てたい
―― 最後に,無量谷先生は文部科学大臣優秀教職員表彰を受けていらっしゃいますが,どういう学生を育てたい,教育についてこんなことを大事にしているという点を聞かせていただけますか。
無量谷先生 最終的には,看護師として社会に出て頑張ってもらいたいですね。あきらめないで,最後まで頑張れる人。
色々な人の声を聞いて,それをいったん素直に受け止めて,自分で考えていける人。そういう人間性をもった看護師になってほしいと思います。
看護の職場環境もなかなか大変だと思います。
医療の高度化で覚えなくてはならないこともたくさんあります。
色々な方々の個別性を考えて対応しなくてはいけません。
様々な職種のスタッフとの関係を上手に保つためには,自分が自分がというのではなく,周りの人はどんなふうに考えているのだろう,自分はどうしたらよいのだろうと,1 回落とし込んで考えてから行動できるようになってほしいと思います。
それから,5 年一貫課程ですと 20 歳という若い年齢で看護師になりますので,当然,知識・技術,社会通念,礼儀作法を含めた色々なものが十分身に付いていないのは当然だろうと思います。
指導してもらうことをありがたいと受け止め,くじけることなく頑張る,そういう気持
ちを持ち続けてほしいなって思っています。
色々な思いをもつ学生も多いのですが,せっかく看護というものに興味をもって入学した学生たちなので,私も学生たちに「看護はとても素晴らしい,すごい仕事だ」という意味合いを伝えながら,
「ちょっと頑張ってみようかな」「もうちょっと続けてみようかな」「看護師になるのもいいかな」という思いにつなげられるように,かかわっていきたいと思います。