- 5年一貫
- カリキュラム
- カリキュラム
5年一貫校 新教育課程における 教育実践の取り組み カリキュラム編成から授業展開まで
茨城県立岩瀬高等学校
- インタビュー
- 2024/09/19 掲載
新教育課程がスタートして 2 年。改めて各校の取り組みについて伺ってみました。
各校の教育理念や教育実践の工夫を感じ取っていただけたら幸いです。
茨城県立岩瀬高等学校
患者さんに寄り添う心をもち,
自分の成長を感じられる看護師を育みたい
衛生看護科科長
堀川幸恵先生に聞く
茨城県立岩瀬高等学校の教育の特色について
―― 岩瀬高等学校の教育理念・教育方針をお話しいただけますか。
堀川先生 数年前から,“With Smile Project”という取り組みをしています。
生徒が笑顔でいることは本当に大事なことなのですが,教えているわれわれ教員も笑顔で学生たちの教育をサポートできるように取り組んでいます。
最終的には学生の自己実現,看護者として巣立ち,将来にわたって看護職として成長していくことが目標になるのですが,そのために笑顔を大事にしようと頑張っているところです。
やはり学生が,色々な学習を通して「わかるようになった」「できるようになった」という体験することや,実習で患者さんと接するなかで出てくる反応は,われわれにとってすごく励みになっています。
そのため,「楽しい」「面白い」「できた」「頑張れる」という学生の 1 つひとつの反応を大事にしていきたいと思っています。
―― 「自律」を意識されている教育とうかがっていますが,どのように育成されているのですか。
堀川先生 「自律」は本当に難しいところです。
現在の成年年齢は 18 歳ですが,専攻科生であっても気持ちはほとんど高校生なのですよね。
自分で自分を律していく,自分で考えていくということはなかなか難しくて,今は学生たちを育てていくために色々な試行錯誤をしている段階です。
たとえば校内実習では,手順どおりに技術を提供するだけではなく,「ここはどうしてこうなんだろう」「こうやったらいいんじゃないか」という学生の考えを否定せずにサポートしていきます。
そういったところからも学生の自律は育まれていくと思いますので,「生徒が声を発することができる環境」を大事にすることに取り組んでいます。
―― 県内で県立高校唯一の看護師養成課程をもっていますが,地域での役割という点ではどうでしょうか。
堀川先生 ここ県西地区は病院数・看護師数が非常に少ないために,本校衛生看護科が立ち上がったという歴史がありますので,やはり地域の看護職を育てるという使命は非常に大きいと思っています。
県内 1 校の県立高校ということで,県内の広範な地域から片道 2 時間かけて通
学する学生もいますし,また隣接している衛生看護科がない栃木県から通学してくる学生もいます。
そのため,地域密着というのもなかなか難しいところではあるのですが,茨城県の看護
師を育てる,そのなかでも県西地区に残ってくれる看護師を育てるということを,職員みんなで頑張っているところです。
学習指導要領・指定規則の改正に沿ったカリキュラムの工夫
―― 学習指導要領・指定規則の改正にあたって,カリキュラムで工夫されたことはありますか。
堀川先生 今回のカリキュラム再編にあたって,衛生看護科と専攻科で重複していた部分や,履修学年の見直しを行いました。
あとは 3 観点評価が入ってきていますので,「人体の構造と機能」「疾病の成り立ちと回復の促進」など,今までは外部講師の授業だけで終わらせていたところを,内部教員が 1 単位,20 時間もつという形で担当することで,知識だけにとらわれない授業が展開できるようになったことが,今回の大きな特徴かと思っています。
―― 3 観点評価もかなり大変な作業と聞いていますが,導入に困難はなかったでしょうか。
堀川先生 導入のときは大変でした。高校 3 年間までのパフォーマンス評価を全科目で作ったんですね。
一番のきっかけは,岩瀬高校全体で観点別評価シートが作成され,活用されはじめたことです。
そうなると必然的に単元ごとに評価場面を設定していく必要があります。
であれば初年度は大変であっても全科目で頑張って作ろうということになりました。
そして授業をする教員任せではなく,みんなが共有できるようなパフォーマンス評価を作っていきました。
実際に運用していくと,「ここの評価場面がないな」とか,「この場面でもっと評価していきたい」という箇所が出てきて,今では毎年見直しを行っています。
パフォーマンス評価を導入したことで,非常に授業内容に深みが出たというか,面白い授業展開ができるようになりました。
評価場面を明確にすることで,どの学年のどの科目,どの単元で教えるかといった調整,横断的な調整ができるようになったことも成果の一つですね。
―― カリキュラム編成にあたって他に苦労されたことはありますか。
堀川先生 今回は時間数が,特に専攻科でかなりきつくなってしまったのですが,一方で臨地実習で融通がきいて運用しやすくなった部分があったため,全体としてはうまく運用できていると思います。
それほど大きく変化はありませんでした。
―― 5年一貫教育の全体カリキュラムを考えるうえで,衛生看護科と専攻科の先生方はどのように連携されていますか。
堀川先生 開校当初は,専攻科は専攻科,衛生看護科は衛生看護科という感じでしたが,教員の相互入れ替えを頻回に行うことで,学生を 5 年間通して見ていけるようになりました。
おかげで「衛生看護科ではこの辺を学んできたから,専攻科ではこういうふうに授業をしていけばよいね」とか,「専攻科でここをやるから,衛生看護科ではここまでをしっかりやっていこう」というのが,ほとんどの教員に共通して見えているんですね。
なので,そういった点では今は 3 年プラス 2 年ではなく,本当に 5 年一貫という考え方で,教育できているなと感じます。
―― では今回のカリキュラム改正の際も,比較的スムースにできたのですね。
堀川先生 そうなのです。本校は「系統看護学講座」を使っていますが,学習指導要領や指定規則と照らし合わせて全部一覧にしたうえで,ここまでは衛生看護科でやろう,ここから先は専攻科でやろうというように,具体的に 5 年一貫というスパンから検討できました。
教材選定の基準と補助教材の工夫
―― 衛生看護科では准看護師養成課程用の教科書は使われていますか。
堀川先生 使ってはいません。衛生看護科から「系統看護学講座」を使っています。
―― 衛生看護科から「系統看護学講座」を使うにあたって何か工夫されていますか。
堀川先生 内容的には難しいので,私たちの授業のなかでは,「教科書を教える」のではなく,「教科書で教える」を意識しています。
科目によっては,授業したところを教科書で復習してみようとか,教科書で少し予習してから授業を受けようという使い方もしています。
―― 実際の授業では独自にかみ砕いた資料を用意して,必要なところを教科書でという教え方なのですね。 資料作成は大変な作業ではありませんか。
堀川先生 大変ですが,それが教員の一番の本職かなと思っているので,大変ですけど楽しいです。
資料以外にも参考書を活用します。
基礎看護技術に関しては,教科書とは別に副読本があります。
写真やイラストが豊富で,見やすさ・わかりやすさという点を重視して購入していま
す。
たとえば「成人看護学」でいえば,「系統看護学講座」はすごくまとまっていますよね。
第 6 章の「患者の看護」では各期の看護目標があって,観察点,アセスメント,ケアというふうに全体がまとめられていますが,全項目を最初からすべて授業のなかだけでやろうとすると「教科書を読みなさい」で終わってしまいます。
ですから,授業では部分・部分を活用しながらの使い方のほうが学生も学習しやすいですし,実際的だろうと思います。
―― 5 年一貫教育に移行する前はどうだったのでしょうか。
堀川先生 本校も 5 年一貫課程になる前は,衛生看護科で准看護師養成課程用テキストを使い,専攻科では「系統看護学講座」を使っていました。
しかし,5 年一貫課程に移行したときに教科書の一本化をはかりました。
―― 教科書の一本化で苦労されたことはありますか。
堀川先生 学生はもともと授業が難しいものだと思って入学してきていますので,教科書についての不満はありませんでした。
難しい内容をいかにかみ砕いて教えるかが私たちの役割かなって思っています。
衛生看護科の教員は確かに准看護師養成課程用の教科書を使っていましたが,5 年一貫教育になったときに,ぱっと頭が切り変わったようです。
もともと 5 年一貫教育に入る前から,衛生看護科と専攻科間の異動はありましたので,そのことも影響していると思います。
―― 5 年一貫教育に移行した段階で交流がスタートしたわけではないのですね。
堀川先生 確かに,交流がより密になったり,多くなったりしたのは 5 年一貫教育になってからですが,それ以前もなかったわけではありません。
「国家試験で系統看護学講座のこの一文から問題が出たよ」とか,「教科書はやっぱり医学書院の本で進めよう」とか,共通の話題が結構あります。
―― 岩瀬高等学校は衛生看護科と専攻科の教職員室が同じ場所なのですね。物理的に近いと心理的な垣根も下がってコミュニケーションしやすい環境になりますね。しかも教員間の異動もあるということで,意識改革にプラスに働いているように思います。
堀川先生 交流が密になると,「どうして衛生看護科ではここを教えていなかったんだ」とか,「これは専攻科に入ってからやってもらえばいいわ」といったことはなくなりますよね。たとえば教員が衛生看護科のうちから国家試験も意識するようになって,授業の中で「こんな問題が出たんだよ」というような情報提供もできるようになってきます。
―― 国家試験の話が出ましたが,岩瀬高等学校は 3 年連続で全員合格を達成されています。国家試験に対して特別な対策はされているのですか。
堀川先生 特別なことはおそらくやっていないと思います。衛生看護科の 3 年生でとにかく必修問題は最低限クリアしようという目標はあります。
衛生看護科でしっかりと学習して,それから専攻科に上がっていこうという意識はあります。
専攻科 1 年生のときに国家試験の問題集を購入します。
2 年生になると,就職活動があったり,臨地実習が多くなったりするため,逆に 1 年生のほうが国家試験対策にじっくりと取り組む時間があるのです。
―― 衛生看護科の 3 年生ぐらいから必修問題の模擬試験を受けるのですか。
堀川先生 必修問題の模擬試験は行っていませんが,低学年用の模擬試験は取り入れています。
専攻科 1 年生になってからは模擬試験を定期的に受けていて,5~6 回の必修問題や領域別の模擬試験があります。
国家試験全員合格は本校にとっても悲願でしたので,初めて全員合格になったときは本当に嬉しかったですね。
後輩の在校生も「自分たちもできるんだ」ときっと思ってくれていると思います。
電子教科書の活用
―― 3 年前から電子教科書を導入されていますが,いかがでしょうか。
堀川先生 今は衛生看護科の学生,専攻科の 1 年生までが電子教科書を持っています。
確かに初年度にかかる初期費用は高くなりますが,系統看護学講座 70 巻すべてが入っていますので,今まで本校で採用していなかった教科書も使えるというメリットがあり,すごくいいですね。
かなり活用しています。また,動画が見られることで,校内実習がかなり変わりました。
―― 教員の先生方は電子教科書に戸惑いはなかったですか。
堀川先生 思ったより違和感なく導入できましたね。
私も基本的には紙ベースの人間でしたので,授業でうまく使えるか不安でしたが,色々な教科書をいつでもタブレット1台で閲覧できるので,大変便利です。
例えば,「解剖生理学」の中で,生体の恒常性を教えているのですが,この単元は「病態生理学」の教科書のほうがわかりやすく書かれていますので,学生にも参照させています。
検索の機能を使うことで,こういった授業準備や授業展開がスムーズになっています。
最近では,授業中でも「○○を検索してみて」「どこに載っている?」と,さまざまな教科書で調べたり確認したりすることを促しています。
紙だったらできないですよね。もうタブレットがないと授業にならないです。
―― 学生はどうですか。
堀川先生 学生は早々に慣れてしまいました。
いつの間にか電子教科書の機能を使いこなしています。
教員が学生から教わるくらいです。
グループ学習の発表資料の作成も今は全部タブレットで作成してもらい,グループワークでも電子黒板に資料を映して発表させていますので,もう使うのが難しいという状況にはありません。
クラスに何人か電子機器の操作が得意な学生がいて,率先してやってくれるので,私たち教員は見ているだけで学生たちはフル活用できるようになっています。
電子教科書であれば,通学の時間に学生たちが予習復習できるんですよ。
本校では片道 1 時間,2 時間かけて通学している学生が多くいますので,そこはとても大きいと思います。
コロナ禍の授業
―― コロナ禍での授業はどのようにされましたか。
堀川先生 コロナ禍のときにオンライン授業になりましたが,画面の先に学生の表情がなくて,機械に向かって喋っているだけなんですよ。
本校はわりと早い段階で Wi-Fi 環境やタブレットが準備できましたので,オンライン授業はスムースに導入できたのですが,やっぱり,学生からの反応がないというのは物足りないですよね。
―― オンライン授業は学生も慣れなかったこともありますね。大学だと 2020 年に入学して,3 年間ほとんど学校の敷地に行く機会がなかったという大学生もいました。
堀川先生 幸い,茨城県はそこまでではなかったのです。
本校は実習先の病院に必死で「お願いです。現場に立たせてください」ってお願いしました。
それを了解してくださった病院には,本当に感謝しかありません。
―― 受け入れる病院にとっては大変な決断だったと思います。
堀川先生 私たちも,コロナウイルスを持ち込んだらという不安と,学生が病院で罹患したらという 2 つの不安を抱えながら,「でもやっぱり現場に立たないと,経験できないこと,感じられないものがたくさんあるから」ということで実習を進めました。
―― 実習は引率するのですか。
堀川先生 かなり日数は減りましたが,今でも引率に行きます。引率は大変だけれども,楽しいですよね。
「授業でやったことがつながった」とか,「一生懸命考えた看護を提供することで,患者様が笑ってくれた」とか。
実習では学生の成長がすごく早いので,それを体感できる実習引率は,教員にとっても貴重だと思っています。
そして,うまくいかなかったときは,いかないなりの体験として,授業の中で教材にもなってきます。
最近,実習にはヘルプ程度にしか行かないので,生きた教材がなくなってきて,これではいけないと思っています。臨床の現場は教材の宝庫なので,それだけで 1 時間話せちゃうくらいです。
患者さんに寄り添う心をもち,自分の成長を感じられる看護師を育みたい
―― 堀川先生の教育に対する思い,学生にどういう看護師になってほしいかという思いを聞かせていただけますか。
堀川先生 言葉にするのはなかなか難しいのですが,私が教員になった頃,看護の大学教育が盛んになってきた頃ですが,「どうして高校生に看護を教えているんだ」と言われたことがあるんですね。
なので,私にとって「高校で看護を教えること」の意味は,ずっと自問自答してきた部分でもあります。
高校生だからこそ難しい側面がある反面,高校生という時期だからこそ育てていけるものが非常に多いと感じています。
学生たちは自分たちが未熟であることを理解しているので,心の部分で「どうすれば患者さんに寄り添える看護ができるか」と常に意識して行動しています。
そういった心づくりは,やはり多感な思春期にあたる高校で看護を学ぶ強みなのかと思います。
最初に言ったように「わかった」「できた」という学生の表情がすごくキャッチしやすいですし,学生たちも純粋だからこそ表出してくれるのです。
そこは高校で看護を教える醍醐味かなと思います。
―― 教育自体を楽しんでいらっしゃるのですね。
堀川先生 そうですね。教えてはいるのだけれども,教わることのほうが多いので。
私は授業の中で学生に感想を一言書かせることが多いのですが,それを読んでいると,「そんな考え方もあるよね」「そんなふうに感じたんだ」という気づきが本当に多いのです。
逆に学生から看護を教わっているのかもしれませんね。
―― この職業が楽しいと思えるような教育はやはり大事だと思います。
堀川先生 やっぱり人が好きで,何かをすることで相手の反応が見られるのは嬉しいですし,自分の成長も感じられるのは楽しいことだと思うのです。
「看護」も「教育」もそういった点でよく似ていると思います。
「看護が好き」と思ってもらえる教育活動をこれからも行っていきたいと思っています。