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動画で学ぶ! 分娩第2期の助産技術
修正リトゲン手技(会陰保護技術)
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動画
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レクチャー
- #無痛分娩
- #助産技術
- 2025/09/11 掲載


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【シリーズ】
動画で学ぶ! 分娩第2期の助産技術 第1回
修正リトゲン手技(会陰保護技術)
修正リトゲン手技は,母体疲労や硬膜外麻酔下の分娩により感覚が鈍化し,適切な腹圧や微妙な努責の調整が困難な産婦において,発露後の児頭娩出(第3回旋)を円滑に行い,会陰裂傷の発生や重症化を予防する助産技術です。言葉を選ばずに言うならば「あとちょっと!あとちょっとで出るんだけど(出せない~)」の状況で効果を発揮する手技とでもいいましょうか。
2024年3月に筆者がフランスの助産実践を視察した際にも,無痛分娩の普及に伴うこの技術の重要性を改めて認識することとなりました。
本稿では,分娩第2期における助産技術の選択肢の一つとして,修正リトゲン手技の理論的背景と実践的応用を概説します。
歴史的変遷
修正リトゲン手技(Modified Ritgen's Maneuver)は,児頭の発露から娩出にかけて助産師が実施する会陰保護技術です。
ドイツの産科医リトゲンによって開発された当初の手技は,陣痛間欠期にのみ実施され,必要に応じて肛門から挿入した指で直腸粘膜越しに胎児顎部牽引を行う侵襲的な手技でした1)。
現在の修正版では陣痛発作時の実施も許容され,会陰の皮膚越しの操作が標準となりました。直腸への指挿入は極めて稀となり,より安全で実施しやすい手技に改良されています。現在ではコクランレビュー2)でも修正版が標準として認識されています。
ちなみにこの技、日本でも取りあげられていました。1929年、当時の慶応大学教授であった安藤画一が著した『産科學』に「リットゲン氏後会陰圧迫法」として掲載されています。
「分娩遅延する場合は最後の手段として鉗子娩出術を施すべし。ただし、排臨するに至れば、まずクリステレル氏圧迫方またはリットゲン氏後会陰圧迫法などを試み、これらが無効なるとき、鉗子娩出を行うべし」
「後会陰部(肛門と尾てい骨先端との間)に手根部(指先を産婦の後方に向かわしむ)を充てて、児の額部または上顎を前上方に圧迫して児頭の第3回旋を補助するなり」
手技は、オーレリーが示してくださったものと若干異なりますが、介助の手を当てる部位や前上方に圧迫して第3回旋を促すこと、そしてなにより、「器械分娩の前にこれを試みよ」というメッセージは現代にも通じます。
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科学的根拠
2024年に発表されたイタリアの研究3)では,硬膜外麻酔下における修正リトゲン手技の有効性が示されました。会陰裂傷のない症例の割合は修正リトゲン手技群で24%,対照群で4.5%と,統計的有意差が認められました。オキシトシン投与併用時においても,修正リトゲン手技群23.4%に対し対照群0%という結果で,有意な効果が確認されています。
この研究の特筆すべき点は,対象の99%が硬膜外麻酔下の産婦であることです。これまでの修正リトゲン手技を扱った研究では,硬膜外麻酔下の産婦とそうでない産婦(いわゆる自然経腟分娩と無痛分娩)が区別されずに分析されていました。そのため,無痛分娩における修正リトゲン手技の有効性を評価することが困難でした。この点で、今回のイタリアの研究は非常に参考になる貴重なデータを提供しています。
上記の研究で一定の効果が認められた一方で,他の研究では効果を否定する結果も存在し,さらなる研究の蓄積が待たれている状況です。
教育実践
スイスのフランス語圏では硬膜外麻酔による無痛分娩が広く実施されています。ジュネーブ保健高等学校では,臨地実習後半において学生のリクエストに応じて修正リトゲン手技の教育を行っています。同校のオーレリー・ドルーアン=アビナル助産師の協力を得て,手技の実演と3Dアニメーションによる教育動画を作成しました。この手技はフランスおよびスイスフランス語圏では「Crochetage du menton(顎ひっかけ手技)」と呼ばれ,助産師の熟練技術とされています*。
*フランスやスイスフランス語圏では,会陰に触れないハンズオフ介助が主流であり,修正リトゲン手技は高度な技術として位置づけられています。一方,日本の助産師は従来から会陰保護の技術を継承してきた経緯があるため,修正リトゲン手技のようなハンズオン技術の習得は比較的容易と考えられます。 |
実践
まとめ
修正リトゲン手技は,現代の分娩環境における重要な技術選択肢の一つです。科学的根拠については今後さらなる研究が必要ですが,助産師が多様な技術的選択肢を持つことの意義は大きく,この手技を習得することで助産師の技術の幅が広がることが期待されます。
また,胎児のWell-beingが保たれており急速遂娩の必要がない場合においては,安易なクリステレル胎児圧出法(子宮底圧迫法)や会陰切開術 と比較して,母児への侵襲性がはるかに低い手技といえます。修正リトゲン手技は会陰裂傷の予防と母児の安全確保を通じて,より質の高い助産を提供し,助産実践の発展に寄与するものと考えられます。
謝辞 :修正リトゲン手技の映像化にあたって、多大なご協力を賜りましたAurélie DELOUANE-ABINAL助産師( Sage-femme MSc. Spécialiste clinique aux HUG, Chargée de cours à la HEdS, Switzerland)に心より御礼申し上げます。 3Dアニメーション動画は2024年度放送大学教育振興会助成事業の支援により作成されました。 |
文献
1)Aquino CI, Saccone G, Troisi J, et al.:Is Ritgen's maneuver associated with decreased perineal lacerations and pain at delivery?.J Matern Fetal Neonatal Med.(18):3185-3192,2020.
2)Dwan K, Fox T, Lutje V, et al: Perineal techniques during the second stage of labour for reducing perineal trauma and postpartum complications. Cochrane Database Syst Rev, 10(10):CD016148, 2024.
3)Salusest S, Salvi S, Totaro Aprile F, et al: Ritgen’s maneuver in childbirth care: A case-control study in a Central Italian setting. Eur J Midwifery, 8:1-8, 2024.