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雑誌「看護教育」巻頭インタビュー

学生の肯定的意図を信じて、まず、ちゃんと聴く。そして伝える

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  • 2025/12/02 掲載
櫻井将
櫻井将
著者紹介
櫻井将
エール株式会社代表取締役。横浜国立大学経営システム科学科卒業。新卒でワークスアプリケーションズ入社。新規営業にて社長賞を受賞後、人事総務部のマネージャーを経て、GCストーリーへ。両社にてGPTW「働きがいのある会社」ランキングでベストカンパニー賞受賞。GCストーリーで働く傍ら、幼児教育のNPOを立ち上げ、保育士資格を取得。ビジネス、幼児教育の現場にいる中で「聴くこと」の価値と可能性を強く感じ、2014年から心理学やコーチング、カウンセリングなどのコミュニケーションを本格的に学び始める。2017年2月、エール株式会社に入社、同年10月より現職。

※本インタビューは、雑誌『看護教育』65巻5号(2024年9-10月号)のp.489-496に掲載したものを、Web掲載用に再編集したものです。


近年、傾聴に対する意識が高まっています。学生と対峙する看護教員のみなさんも、「学生の話をしっかり聴こう」と日頃から 心がけているのではないかと思います。一方で、「本当に聴けているのだろうか」「聴いているだけでは学生の指導につながらない」とモヤモヤする気持ちを抱いている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

櫻井さんは、「聴く=without ジャッジメントで意識的に耳を傾ける行為」と定義し、聴く上で相手の肯定的意図を信じる姿勢がまず大事だと話します。これからの時代を担うニューウェーブ、Z世代が育つ今。学生の特性や置かれた環境も大きく異なる中、教員のみなさんはどのように聴き、考え、伝えればよいのか。櫻井さんの言葉から、そのヒントを探してみませんか?

 

「聴く」とは、withoutジャッジメントで相手の話に耳を傾けること

――近年、「傾聴」に対する人々の意識は強くなっているように感じますが、櫻井さんは従来の「傾聴」という言葉の使われ方に疑問を覚えたといいます。

櫻井さん(以下、櫻井) 私は主にビジネスの分野で活動してきましたが、たしかに「傾聴」への意識は強くなっているように思います。しかし、この傾聴という行為は心理学療法やカウンセリングを起源としていて、そのままビジネスの現場に当てはめても実用的ではないと思われることが多いと感じています。実際に職場や学校で人とコミュニケーションを取っていると、ただ相手の話に耳を傾けているだけではうまくいかないことも多いですよね。カウンセリングのような「傾聴」だけでは、リアルに現場のコミュニケーションに悩んでいる方々にとっては不十分だな……そう感じたことをきっかけに、「聴く」ことに関する本を書くに至りました。

 初めに、「 聴 く」という言葉の定義を「口をはさむことなく、黙ってうなずきながら相手の話に耳を傾けること」だと思っている方が多いように感じます。しかし、自分ではしっかり聴いていたつもりなのに、「全然聴いてくれない」と言われたことはありませんか?私は経験があるのですが。

 そこで、この本では「聴く」ことを「自分の解釈を入れることなく、意識的に耳を傾ける行為」と定義しました。英語で言うと、「 withoutジャッジメントで意識的に耳を傾ける行為」としています。

 

――なるほど、「withoutジャッジメント」なのですね。

櫻井 研修などをしていると「相手の話を聴いてしまうと言われた内容を叶えなければいけなくなるので、聴かないほうがいい時もあるのでは?」というご質問をよくいただきますが、私は、聴くことと叶えることは別物だと考えています。相手の意見を「なるほど、あなたはそんな考えなのですね」と自分の解釈を入れずに、まず聴く。その上で、自分の立場や意見を加味して判断をする。結果、相手の意見は叶えられないこともある。

 部下の意見を「そうですよね」「私もそう思います」と同調的に聞いてしまうと、相手の希望を叶えないと「分かってもらえたと思ったのに」「裏切られた」と相手が感じてしまう。「 聴 く」という言葉の定義が曖昧な故に起こるこの現状に違和感を持ち、with/withoutジャッジメントで「聞く」と「聴く」を整理しようと考えました。

 「聴く」ということの重要性はみなさんも認識されている一方で、聴くとはどのような行為なのか、その定義が人によって異なったらうまく活用できません。よく研修などで「聴」という漢字には“耳”と“目”と“心”が入っているから全身で聴くんだ、などと言われますが、正直よく分からなくないですか?(笑)

 教員のみなさんの中にも「学生の話、ちゃんと聴いているよ」と思いながら、内心では「本当にちゃんと聴けているのかな?」と不安を抱えている方も少なくないと思います。その不安は、「 聴 く」の定義が曖昧だから起きる可能性もあるのではないでしょうか。

 

櫻井さんの考える、 「聴く」と「聞く」の違い

――興味深い着眼点です。具体的に、「聞く」と「聴く」はどう違うのでしょうか。

[図1]「聞く」と「聴く」の視点の違い

『まず、ちゃんと聴く。コミュニケーションの質が変わる「聴く」と「伝える 」の黄 金比』(日本能率協会マネジメントセンター,2023)p.31より.

櫻井 まず、視点が違います[図1]。相手の話を「自分の視点」で解釈するのが「聞く」で、相手の話を「相手の視点」から解釈しようとするのが「聴く」です。結果的に、聞く時の反応は同意する/反対する、従う/従わないになります。一方で、「聴く」は「あなたはそう考えているのですね」「 そう感じているのですね」と聴き手の解釈を入れることなく話を受け取る、寄り添う反応になります。

 また、立ち位置や関心の向け先の違いと考えることもできます。「 聞 く」は相手の正面に立ち、自分から相手に関心の矢印が向かいますが、「 聴 く」は相手の横に立ち、関心の矢印は相手の関心事に向かいます。横並びで相手が見ている景色を一緒に見ようとすると、相手の話が聴きやすくなります。

 「傾聴」に関する本などには、「 聞 く」がダメで、「 聴く」が良いと書いてあることもありますが、私は聞くも聴くもどちらも大切、という立場を取ります。相手の意見や考え方が自分視点で共感できるものであれば、「聞いた」ほうがスムーズに事が進む場合もあります。一方で、自分とは異なる意見や考え方が目の前に現れた時は、「 聴 く」を使えるとうまくいきやすいです。2つの違いを理解し、自分が今どちらをしているのかに自覚的になること、そして、その状況ではどちらの聞き方/聴き方が最適なのかを選択できることが重要です。

 無自覚なだけで、私たちはwithジャッジメントの「聞く」と、withoutジャッジメントの「聴く」を自然に使い分けています。状況に合わせて意識的に、最適な選択ができるようになりたいですよね。

 

肯定的意図という信念を持つ

――よく分かりました。では、相手の話をwithoutジャッジメントで聴くために、具体的にはどのようなことを心がければよいのでしょうか。

櫻井 相手の話をちゃんと聴くためには、相手の「肯定的意図」を信じることが最も重要なことだと私は考えます。肯定的意図を信じるとは、相手の発言や行動の背後には必ず何かしらの肯定的な意図があると考えてみるということです。仮に、相手があなたには全く理解できない行動や発言を相手がしたとしても、です。

 相手が社会的に悪いとされることをした時や、自分の意見や考え方と違う話をされた時には、つい、それは間違っている、おかしい、変だとジャッジしてしまいがちです。しかし、「 全 ての言動の背景には必ず肯定的意図があると信じる」という信念を持っていると、相手の話がとても聴きやすくなります。

 この肯定的意図を信じるという言葉を話した時、このように言われた方がいました─ロジカルじゃない人間はいないという、私の信念と同じことを言っている気がします─と。自分からはそのロジックが理解できないだけで、誰しもがその人の世界の中では極めてロジカルに判断をしている、と考えると分かりやすいかもしれません。

 特に看護教員のみなさんは、Z世代の学生を相手にして、「 この子たちの考えがよく分からない」「 なんでこんなことをするのだろう」と思うことが多いかもしれません。しかし、そこですぐに学生をジャッジするのではなく、一度立ち止まって相手のロックを知りにいこうとする姿勢、相手の関心事に興味を持とうとする姿勢が、ちゃんと聴くということなのです。

 とはいえ、社会的に望ましくない行為や指導が必要な行為を全肯定するわけではありません。私は、意図と行動は切り分けて扱えるといいと伝えていますが、意図についてはwithoutジャッジメントで聴き、行動はwithジャッジメントで関わるとうまくいくことが多いと思います。行動だけを注意しても、学生が自分のこと(意図)を分かってもらえていないと感じたら、その学生は教員の話を受け取ってくれるでしょうか。

 もし、学生が指導の必要な行動を起こしたとして、まずは話を聴いて学生の肯定的意図、その行動を起こした背景を理解する。その上で、行動は注意し、その意図を叶えるために別の行動でできることはないかを一緒に考えていくというやり方ができるといいですよね。言うは易しであることは百も承知ですが。

 

聴くための非言語スキルと言語スキル

――まずは学生の肯定的意図を信じるという姿勢が、本のタイトルの「ちゃんと」の部分になるのですね。さらに、学生に話をしてもらい、深めるために、どのようなことを意識すべきでしょうか。

櫻井 肯定的意図という信念を持つことは聴くことの「あり方」部分に相当しますが、聴くための「やり方」、つまりスキルは、大きく分けて「非言語スキル」と「言語スキル」の2つがあります。

 まず、非言語が相手に与える影響が非常に大きいこと、これは看護に携わる方や教員の方は何となくお分かりかと思います。「 おはようございます」という言葉は一緒でも、明るく大きい声と、暗くて小さい声では相手の印象が異なります。仮に言葉の内容が同じでも、口調や声のトーン、表情や姿勢・身振り手振りで、相手に与える印象は変わってしまいます。

 これは、聴く時も同じです。相手が楽しい話をしていたら相手より楽しい雰囲気で、相手が真剣な話をしていたら相手よりも真剣なモードで聴けると、相手は「ああ、この話をしていいんだ」と思い、考えや気持ちを話してくれます。私は、肯定的意図を信じるあり方とこの非言語スキルを併せて「何でも話してもらう力」と表現しています。

 一方、言語スキルは、話をどう進展させるか、どんな質問を投げかけるか、といったスキルです。話の進行の仕方、質問によって、相手の中にあるぼんやりとした話の解像度が上がります。状況や思考・感情の整理、課題の発見や解決などにもつながっていきます。

 先ほどの「何でも話してもらう力」に対して、言語スキルは「話の解像度を上げる力」なわけです。言語スキルがなくても永遠と話してもらえれば大抵のことは解決しますが、時間の制約もあるのでできるだけ早く解決したいじゃないですか。より早く、相手の期待している目的地に到達するためのスキルが、言語スキルになります。

 言語スキルは非常にバリエーションが豊富で、説明したらキリがありません。本に書いたのは、話を聴く時に有効な「4つの質問」です[図2]

[図1]話 を聴く時に有効な「4つの質問」

『まず、ちゃんと聴く。コミュニケーションの質が変わる「聴く」と「伝える 」の黄 金比』(日本能率協会マネジメントセンター,2023)p.117より.

櫻井 ①展開、②具体化、③抽象化、④俯瞰─私はこの4つの質問さえあれば、十分に話が聴けると思っています。特に重要なのが、②の具体化する質問です。意見や考え方が合わない人と話をする時や、より相手の意見や考えを深く理解しようとする時に使えます。

 例えば「卒業したら、2年間世界中を旅してから就職したいと思っています」と学生から言われた時、もしあなたがすぐに就職したほうがいいという考えを持っていたら、「 いや、2年も空けたらもったいない」「すぐに就職した方が……」と、つい抽象度が高い会話のやり取りをしてしまいます。そんな時に、「世界中を旅かぁ。例えば、どんなことをしたいの? 」「 旅 をしてから就職したいってところ、どんなことを考えているのかもう少し教えて」と話を具体的に掘り下げていくと、相手がなぜその意見や考えになったのかの解像度が上がっていきます。すると、すぐ就職したほうがいいと思っているあなたが大切にしていることと、学生の大切にしていることは実は同じだったりするかもしれません。同じではないにしても、お互いの考えが整理できて折り合いがつく、打開策が見つかることが結構あるのです。

 特に相手の世代が違ってくると、自分と違う考えや意見が出てくることが多く、そこで話を具体化できないとすれ違いやすいのですが、「 もう少し教えて」「 例えば……」など、相手の話を具体化することができれば、解決策が見いだしやすくなると思います。

櫻井 私自身も相手と話をしていて、頭の中で迷った時はこの「4つの質問」と「聴くマップ[図2]」を意識します。「今、『聴くマップ』の中でどこの話をしていて、次どういう話をすると、相手が本当に話したい話ができるかな」ということは常に考えるようにしています。みなさんも、得意な領域があると思います。未来の話をしがちな人や逆に過去の話が好きな人、ポジティブな話が好きな人がいれば、ネガティブな話ならいくらでもという人まで、人それぞれです。自分の得意な領域で話が盛り上がる時はそれでいいのですが、盛り上がらない時はちょっと聴くマップを移動したり、いつもは
使わないような質問を入れてみたりと、「 4つの質問」と「聴くマップ」を意識できると、相手の話が聴きやすくなると思います。

 

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聴くだけじゃなく、伝えたい。
Z世代の学生が前を向く、新しい伝え方

――しかし、看護学生の多くは将来患者さんの命を預かる責任のある仕事に就くため、どうしてもwithジャッジメントで厳しく伝えなければいけない場面もあります。そのような中、学生の特性は大きく変化し、厳しい指導は時代にそぐわないともいわれています。

櫻井 今は、学生の仕事に対する考え方も大きく変わっていると思います。昔は仕事の選択肢も少なく、この仕事を選んだからにはある程度続けるという前提に立っているし、一生の仕事にするつもりで就職する方も多かったと思います。一般的な会社でいえば、終身雇用や年功序列が前提であれば、自分ががんばって働きさえすれば自分の人生、キャリアは何とかなる。多少厳しく、理不尽にされようが、がんばろうと思える社会の状態にあったので、先生や上司も厳しい指導がしやすかったのではないかと思います。

 しかし今は、仕事の選択肢も多く、職業の選択もライトになっています。選んだ道が向いていなかったら別の道に進めばいいと思っている方も多くいるのではないでしょうか。ハラスメントやメンタルの問題が出てきやすく、厳しく指導しづらいという状況は、そういった社会環境も影響していると思います。「自分の人生この先安泰かな」「 そもそも日本大丈夫かな」と、自分のキャリアにも人生にも安心感がない。このような不安定な時期を生きる学生と関わる教員のみなさんは、本当に大変だと思います。

 

――ですが、きちんと伝えたいことがある時、教員はどのような関わり方ができるでしょうか。

櫻井 私は2つ、方法があると思います。1つが伝え方を工夫すること、もう1つが厳しい言葉を受け取ってもらえる強い関係性(・信頼関係)をつくることです。

 前者の伝え方を工夫することについて、よく「良いところを褒めろ」といいますが、私は「増えてほしい行動を指摘する」ことをおすすめしています。この2つは混同されがちですが、実はかなり違います。「 増えてほしい行動を指摘する」とは、相手の増えてほしい行動に意識を向けて、それが起きた時には見逃さずに「すごくいいね」「 ありがとう」「 とっても助かる」などと感謝や貢献を伝えていくものです。

 例えば、「 駆 け込み乗車はおやめください」と言われると駆け込みたくなるし、「 次 の電車をお待ちください」と言われると次の電車を待とうかなとなる。人間、否定語はあまり受け取れず、言葉から連想するイメージを実現しようとする習性があるのです。この習性を利用して、増えてほしい行動の発生頻度を高めていくというコミュニケーションは、今の若い世代には使いやすく、指導や教育の場面でとても有効だと思います。ここはこのインタビューだけで伝えるのは難しいので、興味がある方はぜひ本を読んでいただけるといいかなと思います。

 後者の、厳しい言葉を受け取ってもらえる関係性の構築については、ハラスメントの判例からその重要性が分かります。同じ言葉を相手に伝えても、有罪になるケースと無罪になるケースがあります。つまり、ハラスメントで問題になっているのは「何を言ったか」ではなく、「 どんな関係性で相手が何を感じたか」ということです。相手との関係性の中でどんな伝え方が最適かが重要で、自分の伝えたいことをストレートに伝
えたり厳しい指導をしたりするには、相応の信頼関係を築くことが必要です。学生のためを思った愛のムチは、信頼関係という条件が整えば、今でも使っていいのではないかなと私は考えています。しかし、厳しく伝えようと思った時にも、まず、ちゃんと聴く姿勢が大切になってくるのです。

伝える時も、まず、ちゃんと聴く

――伝えたいことをきちんと伝える上でも、まず、ちゃんと聴くことは重要になってくるのですね。

櫻井 学生と関わる中で、もちろんダメなものはダメですし、特に患者さんの命に関わる誤りは厳しく指導しなければならないと思います。でも、先ほども話したように行動と意図を切り分けて、行動の過ちを厳しく指導する前に、意図を聴くことはできると思います。何かを間違ったとしても、その行動をどう思って起こしたのか、どういうことを大切にしているのかは人それぞれです。その行動の背景にある意図の部分を、まず、ちゃんと聴く。でもその結果起きた間違いはwithジャッジメントでしっかり指導する。聴くことと伝えることを両立できるのです。

 また、今は聴いた方がいいのか、今は厳しく伝えても大丈夫かを見極める力を「観察力」と呼んでいますが、これはある程度経験則で育ちます。教員のみなさんは伝えることには慣れているかと思いますが、聴く力もトレーニングして意識すれば必ず向上します。聴くと伝えるをスキルとして身につけた上で、関係性や状況によってどちらのスキルを発揮するのがベターなのかを選択できるようになると、学生とのコミュニケーションも楽になると思います。

 私は、聴くことについていつも考えている人間ですが、聴くが絶対だとは考えていません。常に聴けばいいとは思っていません。知識も経験も学生より多い先生方の基本姿勢は、withジャッジメントの「聞く」でもいいのではないかと思います。今、みなさんが学生とコミュニケーションをする上で問題がない、指導がうまくいっている、学生との関係が良好な時には、そのままでもいいと思うのです。

 ただ、学生との関係に課題を感じていたり、伝えていることを学生が理解してくれなかったりした時には、「聴く」にヒントがあるはずです。そんな時は自分のジャッジを一度脇に置いて、相手が何を考えているのか、何を感じているのかを受け取りに行こうとする姿勢があると、相手のことが理解できるし、相手との信頼関係にもつながっていくと思います。

 聴くは連鎖します。先生に聴かれた学生は、いずれ患者さんにwithoutジャッジメントで関われる看護師になっていくのではないか、私はそう思っています。

 

自分の肯定的意図も信じてほしい

――学生とのコミュニケーションや指導に悩んでいる方にこそ、「聴く」ことを意識してほしいですね。肯定的意図という信念を持つ中で、櫻井さんは「自分の肯
定的意図」をちゃんと聴くことも大事だと言います。

櫻井 本のタイトルが『まず、ちゃんと聴く。』に決まり自分の原稿を読み直していた時、人の話を聴くことはもちろん大事だけど、自分の話をまず、ちゃんと聴くことが、その手前にあるよなと思いました。みなさんもきっとそうだと思いますが、みんな真剣に生きて、何かを良くしようとがんばっている。周りの人、そして自分を幸せにしたいと思っているわけです。もし、自分が伝えていることが相手に届かない、もしくはコミュニケーションがうまくいかないことがあったら、自分がどんな肯定的意図を持って相手と関わろうとしているのか、自分の声を聴いてあげてほしいのです。あなたの行為の背景には、必ず肯定的意図があるはずなので。

 学生に指導が必要な時 、「 言 っても伝わらないだろうな」と思うこともあると思います。今は伝わらなくても、学生の5年後・10年後のために伝えることは、相手のことを本当に深く想っていないと伝えることはできません。相手が嫌な気持ちになったり、怒ったり、真意が伝わらない可能性はありますが、将来、学生に本当に良い仕事をしてほしい、良い人生を歩んでほしいという想いを持っていることを自分でも再確認して指導すれば、その想いは必ず学生に伝わると思うのです。

 厳しいことを言って罪悪感を抱いても、自分の肯定的意図を自分で聴くことができれば、学生を想う自分を自覚し、自分が落ち込んだり後悔したりすることも減ると思います。もしそれができない時は、誰かに話を聴いてもらう時間があるといいかもしれませんね。

 

――櫻井さんは本の中で、伝えると聴くを両立する時は自分1人でがんばろうとせず、周りに頼ることも必要なのではと書かれていました。

櫻井 昔に比べて伝えることが難しく、また、伝えるだけではうまくいかない時代には、ちゃんと相手の話を聴いた上で、伝える、指導する必要があります。しかし、これら全てを1人でやることは非常に難しい。

 学生全員に対して平等に聴くと伝えるを両立させることが難しい時、聴くと伝えるを違う先生で分担したり、もしくは学生同士で聴き合う時間をつくったりしてもいいと思います。1人で抱え込むことは、結果的に学生にとっても良いことではないはずです。

 

――先ほどの「聴くは連鎖する」というお話がとても胸に響いています。聴く、聴かれる連鎖が広がることで、学校全体が、お互いの肯定的意図を信じる気持ちを持って関わり合える場所になるといいですね。

(了)

今回お話を伺った『まず、ちゃんと聴く。コミュニケーションの質が変わる「聴く」と「伝える」の黄金比』(日本能率協会マネジ
メントセンター、2023)

櫻井さんの取り組み

櫻井さんはビジネス、幼児教育の現場で、「聴くこと」の価値・可能性を強く感じたことをきっかけに、心理学やコーチング、カウンセリングなどのコミュニケーションを本格的に学び始めます。そして2017年、エール株式会社に入社し、同年10月に代表取締役就任。社外人材によるオンライン1on1サービス「YeLL」、聴く力を高める「聴くトレ」、キャリア思考力を伸ばす「キャリトレ」などの開発・販売に携わってきました。現在も「聴く」にまつわる講演や研修は年間50回以上、自社メンバーとの1on1は年間300回以上行うなど、自身も日々「聴く」に向き合い続けています。2024年5月時点で、著書『まず、ちゃんと聴く。コミュニケーションの質が変わる「聴く」と「伝える」の黄金比』(日本能率協会マネジメントセンター)は第8刷が発行され、累計発行部数は1万5千部を突破しています(電子書籍を含む)。

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