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新人教員の12か月+ 今月なにする? こんなときどうする?
授業案を作成してみよう
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- 2026/03/31 掲載


1.看護の原理・原則について考えてみよう
――基礎看護教育に何が必要ですか?
この回では、「授業案を作成する」というテーマを扱います。
授業を考えるとき、私たちはつい「どの内容を教えるか」「どのような方法で教えるか」といった具体的な構成から考え始めがちです。しかし、その前に一度立ち止まり、考えておいてほしいことがあります。それが、「看護の原理・原則」です。
もし、「看護の原理・原則とは何ですか」と学生に尋ねられたとき、あなたはどのように説明するでしょうか。
私自身、看護教員になってから、この「看護の原理・原則」について深く考えるようになりました。学生の頃は、その意味を深く考えることなく通り過ぎていたように思いますし、臨床では目の前の患者さんへの対応や業務に追われ、原理・原則を意識して看護を実践する余裕はほとんどなかったからです。
「考え方」の言語化が大事
看護教員として教育の場に立つようになり、あらためて「看護の原理・原則とは何か」「それはどこに存在しているのか」を考えるようになりました。成人看護学実習の指導場面や、フィジカルアセスメントの授業を準備・実施するなかで、学生に伝えている内容のどこに原理・原則があるのか、そして自分自身はそれを意識して説明できているのかと自問することが増えました。知識や技術を教えることに目が向きがちですが、その根底にある「考え方」をどれだけ言語化できているのかは、看護教員として重要な課題だと感じています。では、あなた自身は「看護の原理・原則とは何か」をどのように捉えているでしょうか。
看護実践の土台となる考え方を育てる過程
一般的に、看護の原理・原則とは、ナイチンゲールの看護観を基盤に、ヘンダーソンやオレムなどの看護理論家の考えが統合されて形成されたものと説明されます。これは、「どの場面・どの対象にも共通して適用される、看護の基本的な考え方や判断の軸」であり、技術や方法が変化しても揺らがない、看護実践の土台となるものです。看護学生や新人看護師にとって原理・原則は、「何を優先して考えればよいのか」「迷ったときにどこに立ち返ればよいのか」を示す道しるべとなります。単に知識や技術を覚えるだけではなく、「なぜこの看護が必要なのか」を考えるための基盤であり、その人自身の看護観を形づくる重要な要素だといえるでしょう。
こうした視点で基礎看護教育をとらえ直すと、基礎看護教育とは、看護をまだ知らない人たちに対して、看護実践の土台となる考え方を育てる過程なのではないかと感じます。学生に対して完成された看護を教え込むのではなく、看護を考え続けるための軸を示し、思考する力を育てることが求められているのではないでしょうか。
「種」を蒔く段階
私は、基礎看護教育とは、看護という「種」を蒔く営みであると考えています。その種は、すぐに芽を出すとは限りませんし、学生時代には十分に理解されないこともあるかもしれません。しかし、臨床の現場に立ち、さまざまな経験を積むなかで、ふとした瞬間にその種が芽を出し、自分なりの看護として育っていくことがあります。そして、やがて大きな木となり、次の世代へと新たな種を蒔く存在へとつながっていく――基礎看護教育には、そのような長い時間軸での役割があるのではないかと感じています。
このような看護の原理・原則は、授業づくりの土台となるものです。
では、これらをふまえたうえで、実際の授業はどのように組み立てていけばよいのでしょうか。
2.他の科目とのつながりを意識する
――シラバスから担当科目の役割を考える
初めて自分の担当科目が決まり、「では、この科目をお願いします」と言われたとき、私はとてつもない不安を感じました。専任教員の資格を取得する過程で、「何を教え、何を教えないかを判断すること」「15分以上一方的に話し続けてはいけないこと」など、多くの助言を受けていましたが、それらの言葉が頭の中をぐるぐると巡り、かえって身動きが取れなくなってしまったのです。
「何かを削る」という判断の恐怖
担当科目の教科書を開いてみると、どの内容も大切に思え、「これは省いていいのだろうか」「ここは必ず説明しなければならないのでは」と、不安はさらに大きくなりました。限られた授業時間のなかで、すべてを網羅的に教えようとしても、到底時間は足りません。それでも、「何かを削る」という判断ができず、自分の科目のことで頭がいっぱいになっていました。
実際に授業を始めてみると、学生から「それは他の授業でも聞きました」と言われることがありました。その言葉に私は少し戸惑いましたが、同時に「同じ内容が別の科目でも扱われているのだ」と気づきました。そして、授業を考えるときには、他の科目とのつながりを意識する必要があるのだと感じるようになりました。
専門学校や大学には、学習内容や到達目標が示されたシラバスや科目進度表があります。しかし振り返ってみると、当時の私はそれらを十分に活用できておらず、「形式的に作成されている書類」としてしか見ていなかったわけです。
授業は、1つひとつ独立しているように見えても、実際にはカリキュラム全体のなかでつながりながら学びが形づくられているのです。
学びの積み重ねはミルフィーユ
看護学生は、1つの科目だけで育つわけではありません。3年から4年という時間をかけて、複数の科目を通して知識や技術を学び、それらを臨地実習で統合していきます。その全体の流れのなかで、自分の担当科目が「いつ・どの段階で・何を担っているのか」を考えることが大切なのだと気づきました。学生がこの科目を学ぶ前に、どのような知識や技術をすでに身につけているのかを理解したうえで、既習内容のうえに新たな学びを積み重ねていく視点が必要なのです。
私はこの学びの積み重ねを、食べ物でいうとミルフィーユのようだと感じています。一層一層は薄くても、それが丁寧に重なることで全体として形が整い、おいしさが生まれます。各科目での学びも同様に、少しずつでも確実に積み重なり、最終的に「看護」として統合されていくのだと思います。そのためには、自分の科目だけで完結させようとするのではなく、他の科目とのつながりを意識し、「次の学びへどうつなげるか」を考えながら授業を組み立てていくことが重要になるのです。
こうした視点をもつことで、「どれも大事で全部話さなければならない」という感覚から、「この科目では、これだけは必ず伝える」という核が見えてきます。また、既習科目の内容を振り返りながら、自分の科目のなかで再確認できるような授業構成を考えることも可能になります。
取捨選択の助けになる過去問題
それでもなお、教える内容の取捨選択に迷う場合には、国家試験の過去問題を活用する方法もあります。科目別にまとめられた過去問題集があるので、10年分ほどを確認し、「必ず問われている内容は何か」を整理してみるのです。また、同じ科目でも出版社の異なる教科書を見比べ、重複して記載されている内容を抜き出してみるのも1つの方法です。私は、過去問題で問われている内容が、各教科書のどこに書かれているのかを付箋やマーカーで確認する作業を行いました。時間はかかりましたが、教科書ごとの表現や基準の違いに気づくことができ、結果的に授業づくりの大きな助けとなりました。
視野が狭くなり、自分の科目だけを抱え込んでしまいがちなときこそ、「自分の科目だけでは看護教育は成り立たない」と気づくことが大切です。その気づきが、自分の科目で本当にやるべきことを見せてくれるのではないでしょうか。
◆ 今日から確認したい3つのポイント
1.担当科目の前後にある科目のシラバスを確認しているか
学生がこの科目の前後で何を学ぶのかを把握し、授業の位置づけを明確にできるようにする。
2.国家試験の過去問題を科目別に確認しているか
過去問題から繰り返し問われている内容を整理し、基礎として押さえるべきポイントを明確にできるようにする。
3.複数の教科書を見比べて共通項目を整理しているか
教科書間で共通して扱われている内容を捉え、重要な基礎事項を判断できるようにする。
3.授業案はどうやって作成する?――新人教員が陥りやすい落とし穴
次に、授業案をどのように形にしていくのかを考えていきます。そして、授業案の作成方法とともに、新人看護教員が陥りやすい落とし穴について考えてみたいと思います
授業時間と自己学習時間の配分に注意
大学や専門学校では、いずれも単位制が採用されています。制度上の根拠となる基準は異なりますが、1単位をおおむね45時間の学修で構成するという考え方は共通しています。この45時間は、教室で行う授業時間と学生が自ら取り組む自己学習の時間を合わせて設計されます。たとえば、1単位30時間の授業の場合は、15回の授業で構成され、1回の授業は90分で設計されることが一般的です。
まずは、自分の担当科目が何単位なのか、授業として使える時間がどれくらいなのかを把握することが出発点になります。その限られた授業時間のなかで、何をどの順序で学ぶのかを考えることが、授業案作成の第一歩になります。
ここでいう「授業」とは講義のみを指すものではなく、講義・演習・実験・実習など、さまざまな授業形態を含む概念として用いられます。本稿でも、特に断りのない限り、この意味で「授業」という言葉を用いています。
大学設置基準では、令44年度の改正により、講義および演習については15時間から45時間までの範囲で大学が定める授業時間をもって1単位とすることができるとされています。
一方、専門学校(看護師養成所)においては、「看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン」に基づき、講義および演習については15時間から30時間までの範囲で養成所が定める授業時間をもって1単位とされ、実験・実習および実技については30時間から45時間までの範囲で授業時間が設定されることとされています。
授業形態や制度によって1単位あたりの授業時間は異なりますが、いずれの場合も、一定の学修時間を基準として単位が構成されるという考え方は共通しています。
こうした仕組みをふまえると、まずは自分の担当科目が何単位であり、授業としてどれくらいの時間を使えるのかを把握することが出発点となります。また、日本の学校では1時間を45分で換算することが多く、大学や専門学校では、2時間分の授業を90分として設定しているところが一般的です。その決められた限られた授業時間のなかで、何をどの順序で学ぶのかを考えることが、授業案作成の第一歩になります。
内容を詰め込みすぎる落とし穴
私が担当していたフィジカルアセスメントの科目は、1単位30時間で15回の授業でした。つまり、1単位をおおむね45時間の学修時間なので、実際に対面で教える時間は30時間で、残りの15時間は学生の自己学習に委ねられます。新人教員の頃は、この「授業時間以外の学習」をあまり意識できておらず、限られた授業時間のなかですべてを教えようとしていたことを思い出します。限られた時間のなかで内容を詰め込みすぎてしまうことは、新人教員が陥りやすい落とし穴の1つです。
フィジカルアセスメントでは、臨地実習に向けてバイタルサイン測定などの技術習得が求められます。しかし、単に測定ができることが目標ではありません。患者とのかかわりのなかで、問診やフィジカルイグザミネーションを通して身体の情報をどのように得るのかを理解することが重要です。
ところが新人教員の頃は、「これも大事」「あれも伝えなければ」と考えすぎてしまい、結果として内容を詰め込みすぎてしまいました。その結果、学生の理解が十分でないまま臨地実習に送り出してしまったのではないかと、あとから振り返りました。
学生に思考の道筋を示す
1単位30時間の科目では、15回ほどの授業のなかで、全身をみるフィジカルアセスメントの手技やアセスメントを学びます。その1回1回の授業で、学生に何を持ち帰ってほしいのかを明確にしないまま進めてしまうと、授業内容は散漫になりがちです。授業がうまく進まないほど、「資料が足りないのではないか」「説明が不十分なのではないか」と感じ、プリントづくりに力を注いだこともありました。これも新人教員が陥りやすい落とし穴です。
しかし次第に気づいたのは、「すべてを教えることはできない」という現実でした。むしろ大切なのは、学生が「知りたい」「観察したい」と思ったときに、どのような視点で考え、何を見ればよいのか、その思考の道筋を示すことでした。フィジカルアセスメントは、患者の言葉にならない変化を看ることができる看護技術です。だからこそ、知識や技術の伝達に終始するのではなく、「この患者の、ここが気になる」と感じたときに、どのツールを使い、何を観察し、どうアセスメントし、どのように報告するのかを考える機会を授業に組み込むことが重要だと感じました。
「何ができるようになったか」が評価基準
授業案を立てることは、「何をどれだけ教えるか」を決める作業ではありません。むしろ、「学生にどのような考え方を身につけてほしいか」を考える作業です。
近年重視されているコンピテンシー基盤型教育も、知識の量ではなく、その知識を活用し、判断し、行動できる力を育てることを目指しています。つまり、「何を教えたか」ではなく、「学生が何ができるようになったか」という視点に立つことが求められているのです。
さらに大切になるのは、大学や専門学校などの教育機関が「どのような能力・資質を身につけた学生に学位(ディプロマ)を授与するのか」を示したディプロマポリシーを意識することです。授業は個々の教員の工夫にとどまるものではなく、最終的にその学校が育てようとしている人材像につながっていなければなりません。自分の授業がディプロマポリシーのどの部分を支えているのかを考えることが、授業案の軸を明確にします。
思うようにいかない経験は誰にでもあります。しかしそれは能力不足ではなく、教員として成長していく過程の一部です。試行錯誤を重ねながら、学生にどのような力を育てたいのかという軸を大切にし、自分なりの授業の形を見つけていくことが、新人看護教員にとって何より大切です。
◆ 今日から確認したい3つのポイント
1.担当科目の単位数と授業時間を把握しているか
授業で使える時間を整理し、内容の優先順位を判断できるようにする。
2.授業ごとに学生がもち帰る学びを設定しているか
学びの焦点を明確にし、授業のねらいを一貫して伝えられるようにする。
3.学生が考える時間を授業に組み込んでいるか
問いかけや活動を取り入れ、主体的に考える学びを促せるようにする。
4.授業資料の作成で気をつけるポイントは?
授業の構成が見えてくると、次に重要になるのが「どのように伝えるか」という視点です。授業内容が明確になった後は、それをどのような資料で伝えるのかを考える必要があります。資料は単なる説明補助ではなく、学習の質を左右する重要な要素です。
知識と知識のつながりが一目で見えるよう図式化
従来の穴埋め式プリントは要点整理には有効ですが、空欄を埋めることが目的化し、理解や関連づけまで至らない場合があります。だからこそ、「覚えさせる資料」ではなく「考えさせる資料」にする視点が大切です。図や表を用いて知識同士の関係を示し、「なぜ?」「どう考える?」といった問いを組み込むことで、思考を促す構成になります。たとえば「息が苦しいって、患者さんが言ってきたら、どうする? なんと声をかける? 何を聴く(問診)?」といった問いを資料に入れることで、学生は知識を思考に結びつけやすくなります。
私自身、専任教員資格を取得する際に、「A3一枚で学生の思考が整理できるプリントをつくる」という指導を受けました。情報を詰め込むのではなく、知識と知識のつながりが一目で見えるよう図式化することが重要だと学びました。項目を並べるだけでなく、矢印や枠組みを用いて関係性を可視化することで、学生は知識を構造的に理解できます。
現在の学生はアクティブラーニングを経験してきています。講義だけでなく、調べる・話し合う・まとめる活動を取り入れてみましょう。授業のなかで「隣の学生と2分間話し合う」「グループで観察項目を整理する」といった短い活動を入れるだけでも、理解は深まります。基礎知識は事前課題で押さえ、授業ではその知識を活用して考える構成にすると、資料は「思考の道具」として機能します。
パワーポイントを活用した資料作成の基本も押さえましょう。文字は24ポイント以上、フォントは統一し、1スライド1メッセージを意識します。情報を詰め込みすぎず、図解や矢印で関係性を示すことが理解を助けます。一般的には、90分の講義で20~30枚程度が1つの目安です。これを大きく超えると講義中心になりやすく、活動や対話の時間が確保しにくくなります。
「自分にはわかる資料」は危険
さらに重要なのは、「自分にはわかる資料」になっていないかを確認することです。専門用語を説明なしに使っていないか、前提知識を省略していないか、初めて学ぶ学生が読んでも理解できる表現になっているかを見直す必要があります。同僚に一度見てもらう、時間を置いて自分で読み返すなど、第三者の視点を取り入れる工夫も有効です。
授業資料は完成形を提示するものではなく、学生が自ら読み解き、知識を結びつけ、思考を整理するための道具です。内容を精選し、構造を示し、わかりやすさを点検する。その積み重ねが、主体的な学びにつながります。
◆ 今日から確認したい3つのポイント
1.資料が「考えるための構成」になっているか
図や問いを取り入れ、知識を関連づけながら理解できるようにする。
2.情報を詰め込みすぎていないか
1スライド1メッセージを意識し、考える時間を確保できる分量に調整できるようにする。
3.初めて学ぶ学生にもわかる表現になっているか
専門用語や前提知識を補い、学生の視点で理解できるようにする。
5.早く授業が終わってしまった。次からどうしたらいい?
授業が予定より早く終わってしまうと、思わず焦ってしまいます。新人の頃の私は、「時間を埋めなければ」と強い不安を感じていました。内容の精選ができていないと時間内に終わらず、逆に講義一辺倒の資料をつくると、早口で一気に話してしまい、予定より早く終わってしまうこともありました。自分自身が緊張してうまく伝えられず、学生の反応が薄いと「失敗したのでは」とさらに焦る。学生の表情や理解度を見ながら進めることの難しさを痛感しました。
しかし、経験を重ねるなかで気づいたのは、授業は必ずしも計画通りに進むものではないということです。同じ内容でも、クラスによって雰囲気も進度も異なります。早く終わる日もあれば、議論が深まり時間が足りなくなる日もあると、自分のなかで認められるようになりました。
大切なのは「時間を埋めること」ではなく、「学びを深める時間に変えること」です。場当たり的に資料を追加すると、かえって学習の焦点がぼやけてしまいます。そこで必要なのが、あらかじめ“予備の学習活動”を準備しておくことです。
【予備の学習活動の準備】
小テスト
理解度を確認しながら復習できます。知識の定着にも効果的です。
振り返りシート
「今日の学び」「疑問点」「臨床でどう活かせるか」などを書かせると、思考が整理されます。
ミニディスカッション
短い事例を提示し、隣同士で意見交換するだけでも理解は深まります。
発展課題
基礎を理解した学生には、応用的な問いを提示します。
また、時間が不足した場合の対応も事前に考えておきましょう。次回の冒頭で扱う、オンラインで補足資料を共有するなど、柔軟な設計が安心につながります。
授業の目的は「90分を使い切ること」ではありません。学生が理解し、自ら考えることです。時間が余ることを失敗ととらえるのではなく、学びを深めるチャンスと考える視点が、授業を安定させます。時間管理は経験とともに上達します。焦らず、授業の質を軸に整えていきましょう。
◆ 今日から確認したい3つのポイント
1.余った時間に活用できる活動を準備しているか
追加の演習や振り返り課題を用意し、学びを深める時間として活用できるようにする。
2.理解確認の方法を用意しているか
問いかけやミニテストを取り入れ、その場で理解状況を把握できるようにする。
3.時間不足への対応策を考えているか
優先順位を整理し、資料や動画で補完できるようにしておく。
6.学生の興味を惹くエピソードトークをするには
授業をより印象的なものにする工夫の1つが、エピソードトークです。
フィジカルアセスメントの授業を担当したとき、私はその難しさを痛感しました。内容自体は、患者の状態を理解し、変化を予測するための重要な知識です。こうした思考ができるようになると、看護は単なる作業ではなく、「患者の状態を読み取り、先を考えて行動する専門職」であることを実感できるようになります。しかし、1年生の前期途中から始まっていた授業のため、学生にとっては臨床場面のイメージがまだ乏しく、関心を引き続けることは簡単ではありませんでした。反応が薄く、「伝わっているのだろうか」と不安になる日もありました。
臨床の場面を語ってみた
そんなある日、3年生の臨地実習指導で経験した場面を話してみることにしました。
7月の暑い日のことです。受け持ち患者さんが突然「寒気がする」という報告を学生から受けました。体温は36.0℃台でした。私は学生に、「まずは布団をかけて温かくしてあげよう。そして30分後にもう一度体温を測定しよう」と伝えました。また、指導者にも報告するよう促し、朝の採血結果を確認するよう助言しました。「肺炎などの感染症の可能性もあるかもしれない」と、考えられる状況を学生に説明しました。
その後、結果を確認すると、案の定CRPが上昇しており、体温も38℃台まで上昇してきました。私たちは、体温上昇を予測してあらかじめクーリングの準備をしていました。寒気が落ち着いたタイミングで、すぐにクーリングを開始することができました。
私は学生たちに、「このようにフィジカルアセスメントは、患者さんの状態の変化を予測し、次に必要なケアを準備することにつながる。臨床では、この思考の積み重ねが看護実践を支えている」と説明しました。
この体験を語っていると、それまで下を向いていた学生たちが一斉に顔を上げ、真剣な表情で聞き入ったのです。その瞬間、私は、知識は具体的な場面と結びつくことで学生の興味関心につながると実感しました。
さらに私は、「もし皆さんがこの場面にいたら、どのように考えるだろうか」と学生同士で意見を出し合う時間を設けました。学生たちは互いに考えを共有しながら、「寒気の意味」「感染症の可能性」「次に観察すべきこと」などを話し合い始めました。こうした対話のなかで、それぞれの学生がもつ視点や気づきが広がっていきました。
「今学んでいる内容」につなげるエピソードトーク
以前、「教科書に載っていることをそのまま話すだけなら、本を読むだけでもよいのではないか」と学生から問われたという話を耳にしたことがあります。確かに、教科書レベルの説明だけでは、授業の価値は十分に発揮されません。知識や技術が実際の臨床場面でどのように活用され、将来看護師として働くときにどのような意味をもつのかを伝えることが重要です。その橋渡しとなるのがエピソードトークなのです。
ただし、やみくもに体験談を話せばよいわけではありません。授業内容と結びついていなければ、単なる雑談になってしまいます。たとえば、「臨床ではこんな大変なことがあった」という話だけでは、学生にとっては印象的ではあっても、学習内容とのつながりが見えません。
一方で、「今学んでいる知識が、実際の患者のどの場面で使われるのか」を示すエピソードは、学生の理解を深めます。科目や単元の目標に沿い、「この知識はどの場面で役立つのか」という視点で語ることが大切です。
興味を惹くエピソードトークの3つの条件
学生の興味を惹くエピソードには、いくつかの共通点があります。特に次の3つを意識すると、授業内容との結びつきが強くなります。
1.授業内容と明確につながっていること
エピソードは、単なる体験談ではなく、今学んでいる知識や技術の意味を具体化する役割をもちます。
2.場面が具体的であること
季節や状況、患者の言葉などを含めて語ることで、学生はその場面を想像しやすくなります。
3.考えるきっかけが含まれていること
「もし自分がその場にいたらどうするか」と問いかけることで、学生は受け身ではなく主体的に考え始めます。
この3つがそろうと、エピソードは単なる話ではなく、学習を深める教材として機能すると思います。
エピソードを話すタイミング
エピソードは、授業のどこで話すかによっても効果が変わります。たとえば、授業の導入で話すと、学生はその日の学習内容を臨床場面と結びつけて理解しやすくなります。また、授業中に反応が鈍くなったときに話すと、教室の雰囲気を切り替えるきっかけになります。さらに、まとめの場面で用いると、学んだ知識が実践でどのように生きるのかを印象づけることができます。
90分の授業のなかで雰囲気が停滞していると感じたとき、「ここでこの話をしよう」と準備しておけば、状況に応じた柔軟な対応が可能になります。
エピソード記憶は保持されやすい
知識にエピソードが添えられると、それは単なる情報ではなく「記憶に残る学び」へと変わります。心理学では、出来事と結びついた記憶は「エピソード記憶」と呼ばれ、単なる知識よりも保持されやすいとされています。
日頃から「この単元にはこの話が使える」と意識し、ネタ帳のようにエピソードを蓄えておくことをお勧めします。経験を整理し、意味づけておくことで、授業はより立体的で魅力あるものになります。自分が経験ないことでも他の人に聞いた話でも使えると感じたものはメモして、上手にエピソードを活用してください。
7.事前課題をサボらない仕組みづくり――主体性を育てる課題設計
「やらない」のは価値が伝わっていないからかも
「事前課題をやってこない学生がいるので、提出期限を守らない場合は減点が必要だ」という声をよく耳にします。確かに、事前課題が提出されなければ授業は予定通りに進みませんし、期限を守ることは社会人として大切な姿勢です。しかし私は、「なぜ課題を出すのか」「なぜ期限を守らせたいのか」と自分に問い直しました。評価するためなのか、それとも事前課題によって学生に本当に身につけてほしい力が養えるからなのか、と。
自分の生活に置き換えると、仕事や家庭など多くの役割のなかで常に優先順位をつけて行動しています。価値を感じていることは実行し、そうでないものは後回しになる。学生も同じではないでしょうか。事前課題に取り組めない背景には、怠慢だけでなく、その課題の意味や価値が十分に伝わっていない可能性もあります。
課題の時間は、特別な負担ではないことを伝える
専門学校では、多くの科目と課題が同時進行します。自分の科目だけを最優先にしてもらうのは現実的ではありません。だからこそ、課題を「やらせた証拠」にするのではなく、看護師として必要な知識・技術を主体的に学ぶための手段として設計することが大切だと考えました。
90分の授業1回あたりで考えると、事前学習30~60分、事後学習60~90分程度、合わせて約2時間が標準的な自主学習時間となります。まずはこの前提を学生に丁寧に伝え、事前・事後学習は特別な負担ではなく、単位を構成する当然の学修時間であることを共有しました。
そのうえで、事前課題は1科目30時間分をまとめて提示しました。毎回配付するのではなく、初回のシラバスオリエンテーション時に、事前課題・ワークシート・事後課題を一冊の冊子として渡し、全体像を示しました。これにより、学生が自ら見通しを立て、計画的に取り組めるようにしました。
協同学習の考え方で学びの仕組みを強化
事前課題の内容は、主に既習科目で学んだ内容を振り返り、本科目で必要となる知識を整理・調べるものとしました。たとえば呼吸のフィジカルアセスメントでは、事例を提示し、肺の解剖生理や呼吸困難感を訴える主な疾患などについて調べる事前課題を設定しました。
事前課題は授業前に提出してもらい、学生の準備状況を確認したうえで授業に活用します。さらに、事前に取り組んできた内容をもとにグループで意見を共有する時間を設けました。
ここで取り入れたのが協同学習の考え方です。協同学習は、単なるグループワークではなく、学習者同士が相互に支え合いながら目標達成を目指す学習形態であり、「互いの学びに責任をもつ関係性」を重視します。自分の理解を言語化し、他者の視点にふれ、考えを修正・深化させる過程そのものが学習となります。事前学習があることで話し合いが成立し、互いの準備が学び合いの質を高める構造としました。
事後課題は、授業で学んだ内容を自分の言葉で再構成するものに変更しました。単なるまとめではなく、「何が理解でき、何がまだ曖昧か」を整理するアウトプットの機会として位置づけました。また、事後の振り返りをグループで共有する時間も設け、他者の気づきから自分の理解を広げられるようにしました。できるだけ授業時間内に取りかかれる形にすることで、家庭でゼロから仕上げる負担を減らしました。
このように、事前課題・協同学習・事後課題を一連の流れとして設計することで、課題は管理のためのものではなく、主体的に学びを深めるための仕組みへと変わります。学生がひとりで取り組むだけでなく、仲間とともに考え、振り返り、自らの理解を確かめる。この循環こそが、主体性を育てる基盤になると考えています。
課題の目的は学びの支援であることを忘れない
提出期限についても、一方的に決めるのではなく、「いつなら提出できそうか」とクラス全体に問いかけ、教員と学生が合意のうえで決定しました。クラスとの約束であることを共有すると、前日に声をかけ合う姿も見られました。それでも間に合わない場合は、自ら申し出て再提出日を約束してもらいます。「守れなかった」ことを責めるのではなく、「どうすれば守れるか」を共に考える姿勢を大切にしました。
その結果、最初は準備が不十分だった学生も徐々に取り組むようになり、期限に遅れた学生も自ら計画を立てて提出できるようになりました。
課題の目的は学生への「罰」ではなく、学びの支援です。なぜ課題を出すのか、なぜ期限が必要なのかを教員自身が明確にし、その意図を学生と共有することが重要です。うまくできない学生を評価で切り捨てるのではなく、できる方法を共に考える。その積み重ねが、在学中の学びのなかで主体性を育てることにつながるのではないでしょうか。
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コラム 授業は生き物?
皆さんは担当する授業がもう決まっていますか? 授業のなかには、講義、演習、実習などさまざまな形態があります。実習は臨床でも指導を経験している方が多いと思いますので、新人看護教員になって一番困るのは講義ではないでしょうか? チームティーチング(team teaching)で、新人は先輩教員と共に科目を担当する、あるいは指導教員がついて支援する大学、専門学校が多いでしょうが、それでも数科目は新人でも講義を担当することになると思います。 私が新人だったときも基礎看護学の1科目を1人で任されました。最初はレジュメや資料だけではきちんと話せるか不安になり、台詞までつくっていました。90分の講義をすべて台詞に起こすとなると徹夜するぐらい大変です。なのに、そんなに準備しても、実際に話しているうちに辻褄が合わなくなったり、「あれ、ここ自分でもわかってないかも」、と気がついたり……。 そもそも講義には、当然のことながら受け手である学生が存在します。授業案のなかでは、発問の予想回答を考え進行を組み立てますが、思っていた回答が出てこないことは珍しくありません。学生のはてな顔を前に、焦れば焦るほど、どんどん自分で何を言っているかわからなくなって、教室から逃げ出したい気持ちになったことを今でも思い出します。 それ以外にも教室ではさまざまなことが起こります。遅刻してくる、事前課題をやっていないなど準備が整っていない、実習やアルバイトで疲れていて寝てしまう、集中できず内職(実習記録を書くなど)を始める……。最近はオンラインを活用することもありますが、そこでも、天候の影響や自宅の通信環境が理由でうまく接続できないなどのトラブルもあります。教員の思惑通り授業が進んだら奇跡のようなものです。 教育学の先生から、「授業は生き物」と言われたことがあります。教員は準備をして臨みますが、「授業は誰かがコントロールできるようなものではない」ということだと思います。コントロールできず、どんな状況が起こっても、教員はその場を逃げ出すことはできないのです。不測の事態は「不測」なので予想できない以上、現場ではありのままの自分で勝負するしかありません。ベテランなら予測不能な状況を楽しむことができるかもしれませんが、新人時代にそんな余裕はないですよね。ですから、どんな状況になっても自分が揺らがないための準備だけはしておきましょう。 まずは、自分が担当する教材を「愛すること」です。不思議なことに愛があると、目にしたことや聞いたことがなんでも自分の授業に関連して見えてくるので、授業の幅が広がります。そして何より愛は熱意となってハートに届きます。新人でもベテランに負けない愛がもてますし、実はどんな素晴らしい教育内容より大切なことだと思っています。 もう1つ、いつも「問い」をもっていてください。「看護師の行う排泄ケアとは何か?」「もっと心地よいケアとは?」など、教員が問いをもっていることで、授業に深みが生まれます。これもまた、新人であっても自分も答えを探し続ける存在である、という姿勢は見せることができると思います。 用意した台詞を読むだけの流れるような授業がよいわけではありませんし、授業は生き物なのでコントロールできないことを受け入れておきましょう。そして、学生の反応にタジタジになったり、説明がつっかえだらけになったりしても大丈夫。教材への「愛」と「問い」をもつ姿勢があれば、その授業で伝えたい大事なことになんとか立ち戻れますし、なにより学生にその気持ちが届きます。どうぞ立往生を恐れず、学生にありのままの姿を見せてあげてください。
高口みさき(愛知県看護協会教育センター長) |

