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学内演習の準備をしてみよう

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  • 2026/05/27 掲載
大村ゆかり
大村ゆかり
著者紹介
大村ゆかり
愛知県看護協会教育センター

 

  「学内演習」と聞いて、どのような場面をイメージしますか。私は教員になった当初、すぐには具体的なイメージが湧きませんでした。学校を卒業してから数十年が経っていたこともあり、「どのような準備をして、どのようにかかわればよいのだろう」と戸惑ったことを覚えています。演習支援に入ってほしいと言われたときには、「私が入って大丈夫だろうか」と不安に感じたこともありました。

 そもそも「演習」とは、広辞苑では「物事に習熟するために練習を行うこと。けいこ」とされています。つまり、知識として学んだことを、実際にやってみながら身につけていく学びです。看護における学内演習とは、臨地実習に行く前に、シーツ交換や清拭などの看護技術を学校内で行う実践的な学習を指します。学生同士で患者役・看護師役になったり、モデル人形を使用したりしながら、援助技術や患者への声かけ、安全への配慮などを学んでいきます。単に手順を覚えるだけでなく、「なぜその援助が必要なのか」「相手にとって安心できるかかわりになっているか」「安全に実施できているか」といった視点も大切になります。学内演習は、知識と実践をつなぎ、臨地実習へ向かうための大切な準備の場なのです。

 今回は、学内演習を行うために必要な準備について考えていきます。演習がスムーズに進むように、事前に確認しておきたいことを一緒に整理していきたいと思います。

 

 

1.自分の看護技術に自信をもつために

 

  実践的な看護技術を教えるとなると、まず「自分の看護技術が我流になっていないだろうか」と不安になる方も多いのではないでしょうか。

 看護職として働いているときは、患者1人ひとりの状態に応じて、基礎的な看護技術を柔軟に応用しながら実践してきたはずです。しかし、看護基礎教育の場で学生に伝えるとなると、現場で培った工夫をそのまま教えるだけでは十分ではありません。なぜその方法なのか、どのような根拠があるのか、学生にとって何を大切に学んでもらうべきなのかを整理する必要があります。

 ここでは、看護技術を教える際に何を重んじるべきか、その視点について考えていきたいと思います。

 

マニュアル遵守の裏にある「専門職としての責任」

 私自身、かつては看護技術のマニュアルどおりに実施することが大切だと考え、手順が抜けている新人に対して厳しく指摘することもありました。 その背景には、インシデントやアクシデントが起きた際、マニュアルに沿って実施していれば、それは個人の問題ではなく組織としての課題になるという考えがありました。つまり、マニュアルを守ることは、患者の安全を守ると同時に、自らの専門職としての責任を果たすことにつながると考えていたのです。

 そのため私は、「なぜこの手順なのか」を常に問い直し、新しいエビデンスがあれば取り入れ、不要なことは省くという視点を大切にしてきました。今振り返ると少し厳しい先輩だったかもしれませんが、手順を単に暗記するだけでなく「根拠」を理解していれば、手技の抜け落ちも少なくなるのだと確信しています。

 

技術に自信をもつための土台は「経験の質」にある

 学生に教える立場になったとき、どのように自分の技術に自信をもって伝えることができるのでしょうか。それには、臨床でどれだけその技術を実践してきたかが大きくかかわります。ただし、経験の浅い教員であっても悲観する必要はありません。大切なのは「経験の長さ」そのものではなく、1つの事例からどれだけ深く「根拠」を汲み取ってきたか、という経験の質だからです。たとえばフィジカルアセスメントの打診について、私は2、3年目の頃、放射線科で患者さんの状態を毎日のように確認していました。腹水やガスの状態を自分で評価し、その結果を画像と照らし合わせる。この積み重ねにより、感覚と根拠が結びついていきました。その経験が、後に教員として技術を教える際の大きな支えになりました。

 しかし、注意も必要です。経験を重ねた技術ほど、自分なりのやり方が定着していることがあります。

 

「学び直し」と技術への向き合い方

 看護教員には一定の臨床経験が求められますが、近年では臨床経験が少ないなかで教壇に立つ教員も増えています。また、ベテランであっても、これまで自分自身が実施したことのない看護技術や経験が限られている技術もあるのではないでしょうか。現在は、教科書だけでなく動画やシミュレーターなど、多様な学習ツールが活用できる「学び直しやすい時代」です。自信のない技術などあらかじめテキスト・動画で確認し、授業前には他の教員に確認してもらっておくと安心につながります。学び直しにあたっては以下を参考にしてみてください。

「できる技術」こそ、標準の見直しを

 経験を重ねた技術ほど、無意識のうちに「自分なりのやり方」が定着しています。そのため、現在の標準手順や教科書の内容とずれていないか、授業前にシミュレーターや録画を用いて客観的に見直すことが不可欠です。

「不慣れな技術」は、学びのプロセスの見本に

 不慣れな技術は、動画や教材を活用して練習し、理解を深めていけば十分です。教員自身が「学び直す姿」を見せることは、学生にとって「学び方を学ぶ」最高の手本となります。完璧であることよりも、誠実に技術に向き合う姿勢こそが、教員としての信頼を築きます。

 

「デモンストレーション」をどう乗り越えるか

 多くの教員が、「完璧に見せなければならない」とデモンストレーションにプレッシャーを感じます。確かに、デモンストレーションは学生に手本を示す大切な場面です。しかしそれは、完成された技術だけを見せる場ではなく、技術をどのように習得していくのか、そのプロセスを伝える場でもあります。

 授業前に自分自身が技術を確認するなかで、新たに学んだことや気づいたことがあれば、それも学生に共有できる大切な学びになります。教員が学び直しながら授業に向き合う姿勢は、学生にとって安心感や学習意欲につながります。

 たとえば、「私はこの部分が難しいと感じました」「ここはこのように工夫するとやりやすくなります」と伝えることで、学生はつまずくことを特別なことだと感じにくくなります。教員も同じように悩み、工夫しながら身につけてきたことを知ることで、「自分もがんばってやってみよう」と前向きになれるのです。

 デモンストレーションで本当に大切なのは、完璧さを見せることではなく、できるようになるまでの道筋を示すことなのかもしれません。

・言語化の工夫: あえて動きを止め、「なぜ今この手順なのか」を解説する。

・学生の思考を引き出す: 「次はどうすればいいと思う?」と問いかけたり、一緒に動画を見ながら「どうすると安全か」を検討したりする。

 技術を教えることは、正解を示すことだけではなく、考え方を共有することです。根拠を説明し、学生と一緒に試行錯誤できることが、学内演習の質を高めていくことになります。以下のチェックリストを参考にしてみてください。

 

学生の前に立つための「技術の再点検」チェックリスト

□ 現在の標準手順や教科書の内容を確認し、自己流になっていないか

□ 授業前に実際に手を動かして練習し、動作や流れを確認しているか

□ わからない点や不安な点は、ひとりで抱え込まず、他の教員や教材を活用して学び直しているか

 

 

2.技術演習支援者の人数の決め方と工夫

 

 技術演習を円滑に進めるためには、技術演習支援者(技術指導をサポートする教員)との密な連携が欠かせません。

 全体への指導はメインの教員が行いますが、学生全員の技術をひとりで詳細に確認することは不可能です。そのため、技術演習支援者には、学生1人ひとりに寄り添い、共に試行錯誤する役割を担っていただきます。

 その際、支援者の人数や配置は、担当教員が演習の目的や内容をふまえて素案を立て、領域担当者または科目の担当者と相談しながら決定していくことになりますが、「何人配置すればよいのか」という判断は容易ではありません。そこで重要となるのが、学生数ではなく、演習の性質に基づいて考える視点です。

 

学生数ではなく「演習の性質」で判断する

 支援者の人数は、単純に学生数だけで決まるものではありません。もっとも重要なのは、「その演習で何を、どこまで求めるのか」という視点です。

具体的には、次の2点が判断の軸となります。

・技術の難易度とリスク

 清拭のような基礎的技術と、採血のように侵襲性が高く手順が複雑な技術とでは、必要とされる観察や指導の密度は大きく異なります。

・学生の習熟度

 初めて技術に触れる段階なのか、すでに一定の経験を有しているのかによって、求められる支援のあり方は変わります。

 

技術の性質と学生の習熟度に応じた支援体制

 演習の支援体制は、技術の難易度と学生の習熟度を掛け合わせて検討します。一般的には、以下のステップで自立を促します。

1.【難易度:低 / 習熟度:低】 基本手順の習得期

 まずは基本的な手順を正確に理解する段階です。教員や支援者が細かく介入し、グループ学習も取り入れながら、1つひとつの動作の根拠を確認していきます。

2.【難易度:高 / 習熟度:低】 複雑な技術への挑戦期

 滅菌操作や複雑な手順を伴う技術では、学生の不安も大きく、事故のリスクも高まります。ここでは手厚い配置(支援者1人に対し学生4,5人程度)を行い、安全確保と丁寧なフィードバックを優先します。

3.【難易度:高 / 習熟度:高】 臨床的判断の統合期

 手順は理解できているが、患者の状態に合わせた応用が求められる段階です。支援者は少し距離を置き、あえて学生に考えさせる「見守り」を中心とした配置(1人に対し6〜8人程度)にシフトします。

4.【難易度:低 / 習熟度:高】 反復と定着の自立期

 基本的な技術が定着し、自己調整的な学習(セルフチェック)が可能になる段階です。支援者1人に対して学生8〜10人程度の配置とすることで、学生の自律性を促し、臨床に近い「自身の判断で動く」環境を整えるのが最適です。

 

時間とグループ数から導き出す「最適配置」

 支援者の配置を検討する際は、単なる「人数比」だけでなく、授業時間内に学生全員が技術を完遂できるかという「時間的コスト」を計算に入れる必要があります。

・実施に時間を要する技術(吸引、導尿など)

 1人の実施時間が長いため、同時に稼働させるブース(ベッドや必要物品を一式配置した、学生が技術練習を行うための演習区画)数を増やす必要があります。これに伴い、安全と学びの質を守るための「目」として、ブース数や技術の難易度と学生の習熟度に合わせて、支援者の人数の検討が必要となります。

・短時間で反復可能な技術(手指衛生など)

 回転率が良いため、少数の支援者でも全体を巡回し、効率的かつ効果的なアドバイスを送る体制を構築できます。

 支援者の人数を調整することは、単なる負担軽減ではなく、その技術の性質に合わせて「手厚い指導が必要な場面」と「学生の自立を促す場面」を戦略的に使い分けることを意味します。

 

重点配置と役割分担の工夫

 支援者は、すべての場面に均一に配置するのではなく、学生がつまずきやすい場面やリスクの高い工程に重点的に配置することが重要です。

 たとえば、針刺し事故のリスクがある工程や初めて物品を扱う場面、練習開始直後などは手厚い支援が求められます。一方で、学生同士で進めやすい工程では見守り中心とするなど、メリハリのある配置が有効です。

 こうした判断は、担当教員ひとりで行うものではなく、前年度の担当者や他の教員と情報共有しながら行うことが現実的です。「どこで時間がかかるか」「どこでミスが起こりやすいか」といった経験知を共有することで、準備の精度は大きく高まります。

 また、支援者には事前に以下のような役割を明確に伝えておくことが重要です。

・進行・時間管理:全体を統括する役割

・直接指導:各グループに入り手技を確認する役割

・物品・トラブル対応:物品管理や機器不具合に対応する役割

 役割が明確であることで、支援者は主体的に動きやすくなり、演習全体の質の向上につながります。

 

限られたリソースで効果を高める工夫

 支援者を十分な人数確保できない場合には、学習デザインの工夫によって補うことが重要です。

 たとえば、チェックリストを用いた学生同士の相互評価を取り入れることで、学び合い(ピア・ラーニング)を促進できます。学生同士で教え合い、確認し合うかかわりが見られていれば、支援者が少なくても学びの質は保たれます。また、事前に動画や資料で基本手順を学習させることで、演習当日の説明時間を短縮できます。さらには、支援が必要な学生をあらかじめ把握し、重点的にかかわるといった工夫も有効です。

 

 技術演習における支援者の人数は、「多ければよい」というものではありません。演習の内容、学生の習熟度、時間的条件を踏まえ、限られた人的資源のなかで最適な配置を検討することが求められます。これは教員にとって重要なマネジメントの1つです。

 また、どれだけ準備を重ねても、授業は常に変動するものです。計画通りに進まない場面も少なくありませんが、それは改善のための手がかりでもあります。経験を積み重ねるなかで判断の精度は高まり、よりよい演習運営へとつながっていくでしょう。

 

技術演習支援体制を考えるためのチェックリスト

□ 演習の難易度と学生の習熟度を踏まえて支援者数を設定しているか

□ リスクの高い工程に適切な配置ができているか

□ 学生全員が実施できる時間設計になっているか

□ 支援者の役割分担が事前に共有されているか

□ 学生同士が互いの力を活かして取り組める構成になっているか

□ 次回改善につながる振り返りができているか

 

 

3.技術演習の計画・準備・片づけまで

 

物品の把握から始まる「演習のイメージづくり」

 技術演習は準備すべきものが多く、ひとりでこなせるようになるまでは非常に大変な作業です。私が教員になって一番戸惑ったのは、シミュレーターの名前や、学校で「何がどこに、いくつあるのか」を把握することでした。 まずは、演習に必要なシミュレーターの種類や数を正確に知ることから始めましょう。これがわからないと、具体的な演習計画を立案することはできません。

・周囲の力を借りる

 最も効率的なのは、領域の担当者に確認することです。もし担当者が1人しかいない場合は、同僚や上司に相談し、物品の保管場所を一緒に確認してもらうと、演習の準備がイメージしやすくなります。

・シミュレーターの扱いを確認

 初めて扱う機器は、あらかじめ詳しい人に使用方法や取り扱いの注意点を確認する時間をとってもらいましょう。ひとりで準備が難しい場合は、授業開始前に手伝ってもらえるよう早めに依頼しておくことも、スムーズな運営の鍵となります。

 また、授業開始前後に大変ではありますが、もう一度動作チェックをしてください。昨日は問題なかったのに、今日は動かないなどということもあります。慣れていないと原因がわからないことがあるので、動作チェックは毎回欠かさず行うことが大事です。 

 物品の破損や不具合に気付いた場合は、必ず報告しましょう。そのままにしておくことで次授業で使用する教員が使用できないと事態につながってしまうからです。

 

スムーズな授業展開を支える「2種類の用紙」

 演習計画には、作成の手間はかかりますが、当日の混乱を防ぐために欠かせない2種類の用紙があります。

・学生向け(オリエンテーション用)

 学生がどのような手順で演習を進めるのかを明示したもの

・教員・支援者向け(タイムスケジュール・指導案)

 タイムスケジュールのほか、具体的な指導方法、必要物品と数、物品のレイアウト表などを記載したもの

 これらを準備しておくことで、自分だけでなく演習支援者も共通の認識をもって動くことができ、結果として授業の質が高まります。

 

片づけは「看護の一部」であり「チーム」で取り組むもの

 演習後の片づけをひとりで担っていると、精神的にも負担が大きく、孤独を感じやすいものです。しかし、「後片づけ」は看護師にとって環境整備という重要な業務の1つでもあります。学生・支援者も含め、片づけまで事前に計画しておく必要があります。

・学生への協力依頼

 「使ったものを整え、次に使える状態に戻す」ことは看護の基本です。授業のなかでその重要性を伝え、学生が実施できる範囲(物品の拭き上げ、ベッドの原状復帰など)は積極的に担ってもらうようにしましょう。

・支援者への協力依頼

  演習支援の方にもあらかじめ片づけの手順を共有し、協力して取り組みます。チームで動くことで負担を分散し、短時間で効率よく終えられる工夫が、教員のモチベーション維持にもつながります。

 

次の演習へつなぐ「原状復帰」のポイント

 学校の備品を良好な状態で維持するためには、以下の管理が不可欠です。

・「水分」への細心の注意

 水や液体を使用したチューブ類は、内部に水分が残るとカビの発生原因になります。入念に洗浄し、しっかりと乾燥させることを徹底してください。

・ベッドの原状復帰

 実習室のベッドを使用した後は、シーツを整え、次に使う人が気持ちよく使用できる状態に戻します。

 「準備」で演習の質を決め、「片づけ」で次の学びを整える。このプロセスを学生や支援者とともに歩むことで、科目担当の教員自身の負担も少しずつ軽くなります。看護技術の演習では、多くの物品を使用するため、すべてをひとりで抱え込もうとせず、皆で協力して進める視点が大切です。準備や片づけを共に行うことで、演習運営が円滑になるだけでなく、学びを支え合う雰囲気も育っていきます。

 

◆片づけのポイントチェックリスト

学生との協力: 学生に片づけの役割を分担し、看護師としての環境整備を学ばせているか

物品の洗浄と乾燥: 液体を使用したものは内部まで洗浄し、完全に乾燥させているか

数量の確認: 使用した物品がすべて揃っているか、破損はないか

原状復帰: ベッドや物品の配置は、元の正しい状態に戻っているか

支援者との連携: 支援者と協力して短時間で終える体制ができているか

 

 

4.技術演習支援者との事前打ち合わせのポイント

 

 技術演習を円滑に進めるためには、支援者の人数を確保するだけでなく、「当日にどう動くか」という共通認識をもっておくことが不可欠です。事前の打ち合わせがあるかどうかで、当日の演習の質そして教員自身の安心感は大きく変わります。

 ここでは、チームとして動くために、事前に確認しておきたいポイントを整理します。

 

「目的」と「ゴール」を揃える

 まず行いたいのが、「この演習で何を学ばせたいのか」の共有です。

・到達レベルの確認

 習得を目指すのは見学レベルか、自立実施レベルか。

・指導の重点

 安全性、手順の正確性、根拠(エビデンス)の理解など、どこを最重視して評価・指導するか。

 目的が共有されていないと、支援者ごとに指導内容がばらついてしまい、学生が混乱する原因になります。

 

「どこまで説明済みか」の情報を共有し、不手際を防ぐ

 指示を聞き漏らしていたり、間違えて認識していたりする学生も少なくありません。時には「教員から聞いていない」と主張する学生もいます。それに対処するため、支援者と以下の取り組みを行いましょう。

・学生配付資料の共有

 学生に渡しているオリエンテーション資料や手順書を、支援者にも事前に渡しておきましょう。「どこまで説明済みで、どこからを学生自身の判断に任せているのか」という共通認識をもっておくことで、学生の「聞いていない」という言葉に振り回されず、教員側の不手際を指摘されるリスクも防げます。

・「教える」のではなく「想起させる」かかわりを

 支援者には、正解をすぐ教えるのではなく、「この手順の根拠は何だったかな?」と学生に学んだことを想起させるようなかかわりをお願いしましょう。

 

役割分担と「支援者の力」の借り方

 支援者それぞれの役割を明確にすると同時に、指導のトーンを合わせることが重要です。新人教員の場合は、ひとりで完璧を目指しすぎないことも大切です。

・謙虚に力を借りる

 経験の浅い時期は、「不慣れなため、もし私の指示や進行に不足していることがあれば、ぜひ現場でフォローやアドバイスをしてください」とあらかじめ伝えておきましょう。支援者の経験を味方につけることで、演習の質は格段に上がります。

・介入の加減を統一

 どのタイミングで声をかけるのか、安全上必ず止めるべき場面はどこか、指導の方針をすり合わせておきます。

 

緊急時の備えと振り返り

 想定外の事態にどう対応するか、あらかじめ決めておくと当日慌てることが少なくなります。また、演習終了後に短時間でも「気づいた点の共有(振り返り)」を行う時間を設けることを依頼しておきましょう。この振り返りが、次回以降の演習の質を高める貴重なデータとなります。

 

 事前打ち合わせは、単なる「情報伝達」ではなく、支援者の力を借りることで、当日の混乱を防ぐことにもつながります。「チームとしての方向性を揃える場」であり、その結果として、教員自身の負担や不安を軽減することにもつながります。少しの準備が、当日の現場に大きな安心感と高い教育効果をもたらしてくれます。

 

事前打ち合わせの確認チェックリスト

当日の朝や前日に、以下の項目が共有できているか確認しましょう。

目標共有: 評価の基準や、特に重視するポイントは統一されているか

資料共有: 学生に配付した資料を渡し、「説明済みの範囲」を共有しているか

介入方針: すぐに答えを教えず、学生に「想起させる」かかわりを依頼したか

協力依頼: 自分の不足している部分へのフォローを、支援者に謙虚に依頼したか

振り返り: 終了後の片づけ分担と、意見交換の場を設けているか

 

 

5.技術演習のとき、グループによって差が出てしまったら

  ――「協同学習」の視点で個々の差をクラスの学びに変える

 

 技術演習を進めていると、同じように説明したはずなのに、自分たちでスムーズに進めるグループとなかなか思うように進まないグループに分かれてしまうことがあります。こうした「グループ間の差」を単なる進捗の遅れととらえるのではなく、学生同士が教え合い、高め合う「協同学習」の機会として活用してみましょう。協同学習とは、単にグループで作業をすることではなく、共通の目標に向かって、1人ひとりが役割や責任をもちながら、対話や支え合いを通して学びを深めていく学習方法です

 たとえば、進みが早いグループに、手順のコツや注意点を整理してもらい、他のグループへ伝えてもらうことで、教える側は理解がより深まり、教わる側は学生の言葉で学ぶことができます。また、うまく進まないグループも、自分たちだけの課題ではなく、学び合いの中で解決できる課題としてとらえやすくなります。

 教員が一方向的に教えるだけでなく、学生同士がそれぞれの力をもち寄り、協同して課題に取り組めるように支援することも、演習を豊かにする大切なかかわりの1つです。

 

なぜ進捗に「差」が生まれるのか

 演習のスピードに差が出る要因は、主体性の個人差や、器用・不器用といった個々の特性、さらにはグループ内での役割分担がうまくいっていないことなどが挙げられます。 グループ分けの段階でこれらを完全にコントロールするのは難しいため、当日の動きを見て、教員が「学びの場」を再設計する必要があります。

 

動きの少ないグループを見逃さない

 教員は演習中、クラス全体を俯瞰し、「声が聞こえない」「動きが止まっている」グループをいち早く察知することが重要です。

・重点的な支援と介入

 停滞しているグループには、教員や演習支援者が入り、対話を促します。

・「教え合い」の促進(協同学習の導入)

 うまく進んでいるグループがあれば、その工夫を全体に紹介してもらったり、遅れているグループが見学に行ったりする時間を設けます。学生が「教える」側に回ることは、教えられる側以上に、教える側の理解を深化させる貴重な学習機会となります。

 

試行錯誤から始める「逆転デモンストレーション」

 私がフィジカルアセスメントの授業で試行錯誤した結果、有効だと感じたのは、教員の手本から始めるのではなく、あえて「学生の試行錯誤」から始める構成です。

1.まずは自分たちで挑む

 最初に正解を提示しすぎず、まずはグループ内で「どうすればうまくできるか」を話し合い、実践する時間を設けます。

2.代表グループによる提示

 その後、代表グループにデモンストレーションをしてもらいます。

3.「共に考える」場への変化

 一度自分たちで壁にぶつかった後は、学生の視点が鋭くなります。自分たちと代表グループの何が違うのか、どうすれば改善できるのかを、クラス全体で「共に考える」姿勢が生まれます。

 同じ学生ができるようになっている姿を見ることは、動機づけになるだけでなく、「自分たちも工夫すればできる」という自己効力感を高めることにもつながります

 

協同学習を成立させる教員のかかわり

 協同学習において大切なのは、教員が「正解の判定者」ではなく「学習のファシリテーター(促進者)」に徹することです。 特定の学生が孤立していないか、特定のグループだけが取り残されていないかに目を配り、「今のやり方、他のグループはどうやっているか見てみる?」と提案するなど、学生同士の相互作用を促す声かけを意識してみましょう。

 

 技術演習の主役は、あくまで学生同士の試行錯誤と協力です。グループの差を「問題」ととらえるのではなく、それをきっかけにクラス全体が「共に学ぶチーム」へと成長する仕掛けをつくっていきましょう

 

グループ差を「学び」に変えるためのチェックリスト

全体俯瞰:特定のグループに集中しすぎず、クラス全体の「相互作用」を観察できているか

ピア・ラーニング:うまくいっているグループの工夫を、学生自身の言葉で共有させているか

試行錯誤の許容:すぐに正解を教えず、グループで話し合って解決する時間を確保しているか

見学の活用:進捗の遅いグループが「手本」を見に行くことで、視点の修正を促せているか

共同の目標:「全員ができるようになる」というクラス全体の目標意識を育めているか

 

 

6.演習で学生に指示を伝える難しさと工夫

 

 技術演習では、「授業案どおりに学生が動いてくれるはず」と考えていても、実際には思うように進まないことが多くあります。指示が伝わっていなかったり、理解が不十分なまま演習が始まってしまったりすることも少なくありません。 指示を出す目的は、「伝えること」ではなく、学生が「動ける状態にすること」です。ここでは、指示の出し方のポイントを整理します。

 

「伝わる」ための環境を整える

 演習中は準備や対応に追われがちですが、まずは学生が「聞く態勢」にあるかを確認しましょう。

・「ながら」指示はやめる

 準備をしながら、歩きながらの指示は学生に届きません。全体に指示をしたほうが良い場合は、全体の動きを一旦止めて、学生の注意を集めてから「今から説明します」と区切りをつけることで、聞く姿勢が整います。

・物理的な距離を縮める 

 大きな声を出して全体に通そうとするよりも、学生の近くへ行き、視線を合わせて伝えるほうが確実に伝わります。

 

具体的・段階的に「動詞」で伝える

 特に初学者の場合、曖昧な表現では動けなくなってしまいます。

・行動レベルで示す

 「何を、どの順番で行うか」を明確に示します。「適切に実施してください」ではなく、「〇〇を確認し、△△の順で進めてください」と具体的に伝えます。

・情報は短く区切る

 一度に多くの情報を伝えると混乱を招きます。手順を簡潔にし、重要なポイントを強調して伝える工夫が必要です。

 

理解を確認し、動き出しを見届ける

 「伝えたつもり」をなくすために、学生の反応を確かめる工程を必ず入れましょう。

・学生同士の相互確認

 指示を出した直後に「今から何をやるか、隣の人と30秒で確認して」と促します。自分たちの言葉でアウトプットさせることで、理解の漏れや勘違いをその場で修正でき、スムーズな動き出しにつながります。

・理解度のチェック

 代表の学生に復唱してもらったり、「ここまででわからない点はありますか?」と問いかけたりします。

・最初の一歩を見届ける

 指示を出した後は、学生が実際に動き出すまでその場で見守ります。動きが止まっている学生には、個別で補足説明を行い、孤立させない配慮が求められます。

 

 指示の出し方ひとつで、演習の雰囲気や進み具合は劇的に変わります。学生が自信をもって最初の一歩を踏み出せるよう、伝え方の質を丁寧に積み重ねていきましょう。

 

確実に指示を届けるためのチェックリスト

注目確保:一度手を止め、学生全員の注意を惹きつけてから話し始めているか

具体性:「何を・いつ・どのように」するか、行動レベルで伝えているか

簡潔さ: 情報量を絞り、短く区切って伝えているか

相互確認: 指示の後に「学生同士で内容を確認し合う時間」を設けているか

見届け: 指示出しの後、学生が迷いなく動き出すのを確認したか

振り返り: 演習が停滞したとき、指示の内容やタイミングに問題がなかったか再考しているか

 

 

7.学内演習では、「臨床で行われていないこと」は教えなくてよいのか

  ――「業務の合理化」と「看護の原理原則」の狭間で考える

 

 学内演習の計画を立てる際、「臨床現場で行われていない手技を、あえて教える必要があるのか」という問いに直面することがあります。

 現在の臨床では、医療機器の進歩やディスポーザブル製品の普及により、看護技術は大きく変化しています。たとえば清拭も、ベイスンにお湯を張る方法ではなく、温かいタオルや使い捨て製品で簡便に行うことが一般的になっています。こうした現状を前に、「実習先で行われていないことを学ぶ意味はあるのか」という疑問が生じるのは自然なことです。

 しかし、この問いを考えるときには、まず学内演習と臨地実習の役割の違いを整理しておく必要があります。学内演習は、実習の単なる下準備ではありません。患者に直接実施できる看護技術が限られる場面も多く、学生が十分に実践できない技術も存在します。だからこそ学内演習には、「実習ではできないこと」を補う場としての役割も求められています。

 つまり、「臨床で行われていないことを教えるかどうか」だけでなく、「臨床でできないことをどこで学ぶのか」という視点も欠かせません。

 

機器の普及によって失われる「触れる機会」

 バイタルサイン測定1つをとっても、現在は電子血圧計により血圧と脈拍が同時に数値化され、効率的に測定できるようになりました。

 一方で、こうした変化は「患者に直接触れる機会」の減少ももたらしています。数値を読み取るだけでは、皮膚の温度や湿潤、わずかな変化に気づく感覚は育ちにくくなります。

 仕事の合理化が進むなかで、看護の本質である「手で触れ、五感で観察する」という営みが、学ぶ機会ごと減少しているのではないかという課題も見えてきます。

 

場所を選ばない「看護の原理原則」を教える

 私たちが基礎看護教育で教えるべきは、特定の場面だけで通用する手技ではなく、どのような環境でも患者さんの安全と安楽を守れる「原理原則」です

 たとえば清拭も、単に「体を拭く技術」ではありません。そこには、清潔の保持だけでなく、温度管理、皮膚への影響の観察、苦痛の軽減、羞恥心への配慮、安楽の確保、さらに準備や段取りといった看護の基本的な考え方が含まれています。

 そして、教科書には書ききれない大切な側面もあります。温かいタオルを胸元に当てた瞬間、患者さんが「はぁ……」と深く息を吐き、表情がやわらぐことがあります。その一瞬に、患者さんが安心し、緊張をほどき、「ほっとする時間」が生まれていることを、私たちは感じ取ります。清拭とは、身体を整えるだけでなく、人が安らぎを感じ、自分らしさを取り戻すためのケアでもあるのです。ナイチンゲールが述べたように、看護には「患者が回復しやすいよう環境を整える」という視点があります。温かいタオル一枚であっても、患者さんに安らぎをもたらし、闘病生活を支える力にもなりえるのではないでしょうか。

 また、在宅看護や災害時さらには物資が限られる環境においてこそ、看護の原理原則が重要になります。十分な設備や物品がない状況では、「あるもので工夫する力」や「状況に応じて判断する力」が求められます。看護の原理原則を理解していれば、限られた条件の中で「何を優先すべきか」「どこを工夫すべきか」を判断することができます。

 簡略化された手技の背景にある原理を理解しているからこそ、機器の数値に頼るだけでなく、患者の状態を多面的にとらえることが可能になります。

 

私たちが「教えるべきこと」を見極める

 時代の変化に合わせ、実践的な技術を取り入れることはもちろん必要です。しかし、単に臨床のスピードに合わせるだけでは、看護職としての専門性が「作業」へと置き換わってしまいます。「なぜこのケアを行うのか」「どうすれば最も安全で安楽か」 この問いに答えられる力を育てるためには、たとえ臨床で主流でなくなったものでも、基礎として学ぶべき内容があります。

 学内演習は、臨床の再現にとどまる場ではなく、実践を支える思考と技術の土台を育てる場です。実習で「できること」を増やすだけでなく、「できない状況でも対応できる力」を養うことが求められています。技術は形を変えていきますが、その根底にある看護の心と知恵は変わりません。変化の激しい時代だからこそ、私たちは「教えるべき本質」を問い続けていく必要があるのかもしれません。

 

教育内容を吟味するためのチェックリスト

五感の活用:機器の数値だけでなく、患者さんに「触れる」ことで得られる情報を大切にしているか

環境の多様性:病院以外の場(在宅・災害時など)でも応用が利く内容か

思考のプロセス:道具の便利さに頼るだけでなく、「なぜそうするのか」という思考を促せているか

安全と安楽:合理化の波のなかで、患者さんの心地よさが置き去りになっていないか

教育の役割:臨床の「再現」にとどまらず、看護の「基礎体力」を養う内容になっているか

 

コラム 実習室は学内の臨床現場

 

 看護は「実践の科学」といわれています。つまり講義で知識を学ぶだけでなく、学んだ知識を活用して、対象にその技を提供することで初めて「看護」になります。大学ではもう少し先になるかもしれませんが、専門学校では6月にはいくつかの看護の専門科目で実習室を使った技術演習が始まっていると思います。

 技術演習は看護学校に入学した学生が初めて看護をする側として、実践を学ぶ機会になります。自分や家族が病院に受診したり、採血などの検査を受けたりした経験はあるかもしれませんが、これまでは受ける側だった学生が、看護師側となり、受けた援助の1つひとつにこんな意味や考えがあったんだ、と気づくことになります。そしてここでの学びがその後に続く臨地実習に影響を与え、学生は「看護師」になっていくのです。

 教える側の皆さんは学生にとって最も身近な看護師のモデルです。これまで私服で講義をしていた先生が、白衣姿で現れるのです。ぜひ、ピシッとした着こなしで髪もすっきりまとめ、背筋を伸ばし学生の前に現れてください。学生は「先生は看護師さんだった!」と気づき、羨望のまなざしを向けてくれると思います。

 そんな先生が、本当に素晴らしい看護の技を見せ「すごい!」と感じさせれば、自然と学生は「自分もあんな風になりたい」と思って学ぶモチベーションを高めてくれるでしょう。臨床経験があまりなく、自信がない方もいると思いますが、私たちができることはとにかく練習です。実習室が空いている時間を見つけて、できれば領域担当の先輩教員につきあってもらうといいですね。意欲のある新人教員にきっと力を貸してくれるはずです。今はスマホで簡単に動画が撮れますので、自分の動作を客観的にみてリフレクションするのもいいと思います。

 看護技術はいくつかの基本動作の組み合わせでできています。多くの学校で最初に学ぶ環境整備では、ベッドメーキングの技術が取り上げられますが、ボディメカニクスの原理に基づいた効率的な身体の使い方、清潔・不潔の考え方、心地よさへの追求、コミュニケーション技術など、さまざまな動作が組み合わされば、患者にとって心地よくまた美しいベッド環境ができあがるはずです。学生にキラキラな目で見てもらえることを目指して、がんばってください。

 もう1つ大切なことは、看護はただ手順通りに技術ができればよいわけではないことをどのように伝えるか、です。看護技術は作業ではありません。いくら手順通り素早くできても、患者に心地よさや安寧を与えることができなければ看護ではないのです。

 どうやって伝えたらいいでしょうか? もちろん、毎回の授業のなかでしっかりと伝えていくことが重要ですが、技術演習に入る前に、実習室をどう臨床の場に変えていくか、についてもぜひ考えてほしいと思います。皆さんの学校の実習室はどうなっているでしょうか?

 私は行政機関に勤めているとき、さまざまな専門学校の調査に行かせていただきましたが、実習室にその学校の看護に対する考え方が垣間見えることがあります。たとえば、モデル人形の置き方1つとっても、人として扱っているのか、単に物として置いてあるのかでは、学生に与える影響が変わってくると思います。いくら技術演習で「患者さんに丁寧に声をかけましょう」と言っても、普段そのモデル人形が物のように扱われていたら、学生はそれが患者だとは思えないでしょう。

 看護は本当の意味ではわかりようのない対象に対して、どんな気持ちなのか、どうしてほしいのか、を想像することから始まります。ミルトン・メイヤロフは著書『ケアの本質』のなかで、「私はケアする対象を、私自身の延長のように身に感じとる」1)と述べています。そうした気持ちで演習に臨めるかどうかで、看護技術のあり方が変わってくると思いませんか? これは、技術演習だけではなくロールプレイなどでも同じです。ここは臨床現場と同じであり、モデル人形であっても本当の患者なのだ、ということを皆さんがしっかりと意識してください。

 実習室の環境を臨床現場の再現を目指して整え、「この人が本当に心地よいと感じてくれているのか」を学生に想像させることができるかどうか、で学びの質が変わってくることをずっと忘れないでください。

 

高口みさき(愛知県看護協会教育センター長)

 

●引用文献

1)ミルトン・メイヤロフ著,田村真,向野宣之訳(1987).ケアの本質――生きることの意味,18,ゆみる出版.

 

 

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