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新人看護師の離職防止:卒業生の未来を支える母校の取り組み

第1回 サポートセンター開設の背景と現在の卒業生が直面する課題

  • #新人看護師
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  • 2025/02/19 掲載
相撲佐希子

新人看護師たちがキャリアをスタートさせる中、現場では厳しい現実が待ち受けています。特にコロナ禍以降、新人看護師の離職率が高まる中で、私たちは、母校として卒業生の未来を支えるために何ができるのか真剣に考えています。

本連載では、修文大学看護学部での事例について、学部長の相撲佐希子先生にご解説いただきます。サポートセンターを開設した背景と、卒業生が直面している課題など、全 6 回にわたってご紹介します。

サポートセンター設立の目的

2024 年に日本看護協会から発表された新卒看護師の離職率は、2022 年以降 10 %を超えたまま高止まりしています。この現実は、メディアでも取り上げられるなど、多くの人々が関心を持つ問題として広まりました。

さて、卒業生が就職後に直面する課題は多岐にわたりますが、特に新人看護師は経験不足や職場文化への適応にとまどい、精神的な負担を抱えることが多いようです。これまでの私の経験上、悩んでいることより離職を決めたことを報告に来る卒業生が多いという印象があります。看護師として育成した学生たちが数年で離職を選ぶことに対して、なぜ、悩んでいるときに相談してくれなかったのかと悔やみ、卒業生の力になれない自分に情けなさを感じることもありました。

また、離職することについては、多忙の中でも実習に協力してくださった施設の方々に対して、申し訳なさも感じていました。  

こうした思いの中で、「卒業生を社会に送り出すだけでなく、その後も支援する方法はないか」と考えました。

そこで、卒業生が就職した病院や施設でできる限り長く働きながらキャリアを積めるように、卒業後も支援する窓口を本学部内に設立することにしました。サポートセンターでは、職場環境や対人関係に伴うストレスなどの悩みに対処できる場所を提供し、卒業生が自らのキャリアを全うできるように支援することを目的としています。

     

修文大学離職防止サポートセンター(看護支援センター)事務室

現在の学生の特徴と卒業生が直面する問題

近年、看護学生の背景は多様化しています。例えば、一般大学での学びを経て看護専門学校に進む学生、商業・工業系高校を卒業した学生、介護職から看護師を目指すなど、さまざまな経歴を持つ学生がいます。また、家族との関係もさまざまになっています。

現在の学生は、看護職に対する考え方や価値観が異なり、私たちが想像する以上に多様な視点を持っています。学生時代は、その立場において容認されてきた学生も多いと思います。そのため、就職後には職場における文化や慣習を自分が適応できず、リアリティショックを受けることになると想像します。

新しい環境に適応するためには、周囲とのコミュニケーションやチームワークが重要ですが、その中で生じる摩擦や誤解がストレスの要因となることがあります。また、 情報化社会で育った現在の若い看護師たちは、精神的な負担を感じやすい状況にあります。

その 1 つとして、SNS などで他人の成功や幸福をリアルタイムで目にすることで自分を比べて劣等感を抱くことが多く、これが自己評価の低下を招くこともあります。また、デジタルコミュニケーションが主流の世代であるため、対面でのコミュニケーションが苦手であることが、職場の人間関係においてストレス要因となることも考えられます。例えば、直接の対話が求められる状況で、言葉に詰まったり、思いが伝わらなかったりすることが、自己評価のさらなる低下につながることがあります。  

さらに新人看護師は、専門的な知識や技術を身につけることで精一杯の中で、職場環境に慣れないことや患者ケアに関わる責任の重さや、業務の多忙さに加え、先輩看護師や医療チームとの関係構築などがストレスフルになり、これが離職の一因となる可能性があります。

これまでの環境では、自分ができないことを周囲がカバーしてくれる状況に慣れているため、就職後に責任を持つ立場に変わることを自覚するまで至らないというギャップが、職場での教育体制に対する不満を引き起こす可能性があります。こうしたストレスが蓄積されると、仕事へのモチベーションが低下し、最終的には離職につながります。

このことから、本学部のサポートセンターは、これらの課題に対して具体的な支援を提供し、卒業生が悩みを乗り越えて職場に留まれるようにすることを目指しています。具体的な取り組みについては今後の連載で詳しくお伝えしますが、サポートセンターは病院や施設との連携を通じて、卒業生のニーズに応じた支援を行うことを目指しています。

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次回(第 2 回)は、サポートセンターの開設までの過程や、職場との調整について詳しくお伝えします。また、具体的な事例や卒業生の声も紹介し、サポートセンターの取り組みをお伝えします。

私たちの目標は、看護師としてのキャリアを全うできる卒業生を一人でも多く育てることです。この取り組みを通じて、看護の未来をより明るいものにしていきたいと思います。

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