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【小説】ワースト・ナース~看護教員のリアル~

第 6 話 省みない看護学生 (1)

  • #看護教員
  • #看護学生
  • 2025/10/07 掲載
橘一沙

「先生、俺、もう終わりっすよね?」

私の目の前で、看護学生の高井がぽつりとそう言った。

 

事前に彼の状況を耳にしていた私は、慎重に言葉を選びながら口を開いた。

「病院のほうから実習を中断されてしまったということは……少なくとも、高井くんがこれ以上患者さんを受け持つことは難しいと判断されたってことなんだ」

 

「そうですか」

 

「理由は、自分でわかってる?」

 

「まぁ、一応。俺のやっていることが『危険だった』ってことですよね」

 

「正直、病院側から断られるなんて滅多にないことなんだよ」

 

「おれが真面目に取り組んでなかったからじゃないですか?」

 

「その自覚はあったの?」

 

「まぁ、ちょっと舐めてたかもしれないっすね。2 年生のときの基礎実習で A 評価をもらって、『自分はいける』って思い込んでたんです」

 

「私が担当したんだから知ってるよ。どうして基礎のときのようにできなかったの。ちゃんと毎日勉強して患者さんのところに行ってたのに」

 

その分、落胆する気持ちも大きかった。

1 年後、まさか担任としてこのような面談を行うことになるとは思ってもいなかった。

 

「担当教員から聞いた話だと、術後の患者さんに自分勝手な質問ばかりして、患者さんから『痛い』って言われていたのに報告もしなかったと聞いたよ」

 

「……看護師さんたちが把握してると思ったんです」

 

「ただの不注意では済まされないんだよ。患者さんの安全がかかっているんだから——SpO2が下がっていたのに歩かせようとしたのは?」

 

「早期離床のこと、考えなきゃって思って」

 

「患者さんへの説明で、医師の指示にないことまで言ってしまったのはどうして?」

 

「確認した情報が間違ってて……それをそのまま伝えちゃった感じです」

 

「同じグループの学生から聞いた話だと、そもそも確認もしてなかったって聞いたけど。自分でそう愚痴ってたんでしょ?」

 

「いや、そうなんすかね……覚えてないです」

 

「あと、スタッフルームで何度も大きな声で私語をしていたり、カンファレンスのときにかなり目のつくような態度で座ってたり……くりかえし注意されていたでしょう」

 

「ああ、まあ」と、高井はさすがにばつの悪い顔を浮かべて見せた。

 

「私も1年前、何度も注意したと思うよ、基礎実習のときに」

 

「覚えています」

 

「それは、直らなかったの? それとも直す気がなかったの?」

 

「……正直、そこまで大事なことだとは思ってませんでした」

 

私は担任として、1 年前の実習を担当した教員として、

彼に対し、何を、どのように伝えればいいかを必死に考えていた。

それでも、答えは簡単には見つからなかった。

 

思わず額に手を当てた。

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