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【小説】ワースト・ナース~看護教員のリアル~
第 19 話 お休みしたいと思います (3)
- #看護教員
- #看護学生
- 2026/07/27 掲載

翌朝、私は教員控室の天井を見つめながら、ぼんやりと考えていた。
――今日も、川崎は実習に来るだろうか。
そう思った瞬間、自分の中にある感覚に気づき、嫌な気持ちになる。
欠席の連絡メールや電話を受けるたび、関係各所へ連絡をしなければいけない憂鬱さが胸をよぎる。
残りの実習期間で、どのように学習を進めるか、あるいは合格することは可能か、と。
学生の体調を心配するより先に、学習方法や単位について考えてしまっている自分がいる。
昨日の川崎とのやり取りを思い出す。
「先生がいてくれたから落ち着いて話せた気がします」
あの言葉は、少し意外だった。
実際、私が学生や新人の頃は、教員や指導者に見られているだけで頭が真っ白になることがあった。
川崎の場合は、一人で考え、一人でまとめ、一人で “正しい答え” に辿り着かなければならないと思い込んでいた。
そのことがプレッシャーとなり、ちゃんとできない自分を否定し、体調を崩してしまったのかもしれない。
先生(教員)がいる、一緒に考えるという行為によって、落ち着きを取り戻せたという見方もできる。
しばらくして、川崎が控室にやってきた。
「おはようございます」
昨日より明らかに表情が柔らかかった。
「今日も大丈夫そう?」
「はい。しっかり寝られました」
“しっかり”。
私は、心の中でその言葉を繰り返した。
しっかり寝る。
しっかり学ぶ。
しっかり考える。
しっかり患者さんに関わる。
私たちは、学生に何度その言葉を使ってきたのだろう。
もちろん必要なことだ。
患者の前に立つ以上、中途半端ではいけない。
けれど、その “しっかり” あるいは “ちゃんと” が、学生たちを追い詰めていることもあるのだろう。
そしてたぶん、教員である私たち自身も。
病棟へ向かうエレベーターの中で、川崎がぽつりと言った。
「昨日はちゃんと患者さんとお話しできた気がしました」
「“ちゃんと” って、難しいね」
川崎は不思議そうにこちらを見た。
「患者さんにとって必要なことを考えるのは大事だよ。でも、最初から完璧にできる人なんていないよね」
「……はい」
「むしろ、“できていない自分” を認めて、いろいろな指導や助言を受けながら考えていくしかないんだと思う。もちろん、自分で学ぶべきことば学びながらね」
それは川崎に向けた言葉でもあり、自分自身に言い聞かせていることでもあった。
「はい、わかりました。昨日はありがとうございました」
「今日も1日がんばろう」
そう返しながらも、心の中では自分でも整理しきれない感情がうずまいていた。
私は看護教員として、学生の体調に配慮しながら学習支援ができているといえるのだろうか。それとも――。
体調不良を理由に実習を欠席し、その間に学習を進め、自分が納得する形で記録を提出してきたという可能性について、触れるべきだっただろうか。
もちろん、実際のところどうだったのかは、わからない。
しかし私は、そのことを学生に追及することはしなかった。
それが正しいかどうかもわからないうえ、学生の成長につながるような関わり方がまったく思いつかなかったからだ。
病棟の扉が開く。
看護師たちの話し声。
ナースコールや心電図の音。
消毒薬の匂い。
私がかつて、何よりも苦手としていた場所だった。
そんな場所を、今は学生を引き連れて歩いている。
大変な場所であることは、間違いない。そんなことは私自身が嫌というほどわかっている。
だからこそ学生には毎日実習に来てもらい、看護師として働いていくための術を学んでもらいたいと思っていた。
そのために学生と向き合い、支援していくのが私の仕事だった。
以前とは異なる、新たな問題の出現に、私たち看護教員は、学生との向き合い方と支援方法について、を
あらためて考え直さなければならなくなっていた。
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