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【小説】ワースト・ナース~看護教員のリアル~

第 2 話 看護師の素質

  • #看護教員
  • #看護学生
  • 2025/07/28 掲載
橘一沙

「あなた、本当に看護師になるつもりあるの?」

学生時代、実習担当の看護教員から言われた言葉だ。

 

当時の私は、看護に興味などなかった。

国家資格が取れればいい、くらいの動機で看護大学に入学してきたからだ。

「高校を卒業したばかりで、まだ働きたくない」というのが本音だったと思う。

 

とはいえ、真剣に学んでいれば誰からも責められるいわれはないはずだった。

しかし、残念ながら私は真面目な看護学生からは程遠い人間だった。

 

講義中は寝てばかりいたし、看護系の演習は大嫌いだった。

基本、手を抜くことしか考えていなかった。看護実習も、正直面倒としか思っていなかった。

 

いつもぎりぎりの成績で単位を取るような学生だった。

それでも大学生活自体は楽しかったので、留年してしまうほどの欠席はしなかった(危うい科目はいくつもあったが)。

先輩方や友人たちの助けを借りながら、なんとか乗り越えてきた。

 

当然、臨床に出てからはまさに地獄のような日々が始まったが、それはまた別の話だ。

ともかく、私自身が “よくない見本のような学生” だった。

 

だからこそ今、看護を主体的に学べない学生を見たり、話を聞いたりすると、

どうしても、学生時代の私と重ね合わせてしまう。

 

実習を不合格になってしまった学生や、退学していった学生たちのことは、いつまでも覚えている。

 

「必要なだけの学習をしてこなかった」、「主体的に取り組まなかった」ために目標を達成できなかった学生たち。

 

優希の「愚痴」のような話は、学内だけでなく、臨床の看護師からもよく耳にした。

看護学生にとどまらず、新人看護師の話にまで及ぶことも少なくない。

 

確かに全くやる気がなく、患者さんのことも考えず、学習を怠っている看護学生や新人看護師もいるだろう。

そんなときはつい「ダメな学生(新人)」として見てしまう。

 

私たち看護教員は、そのような学生と、いったいどう関わるべきなのだろう。

ただ成績をつけて、「合格には至りませんでした」と判断すればいいのか。

「あなたに看護は向いていない」と告げるのが、私たちの役目なのか。

 

しかし、いったい誰が、学生たちの“看護師としての素質”を見極めることができるのだろう?

その人の将来を見通すだけの能力が、私たちに備わっているとは思えない。

 

そもそも看護実習に合格できなかった学生たち、主体的に学習に取り組めなかった学生たちは、

なぜ高い学費を払ってまで、大学で看護を学ぶという選択をしたのだろう。 

 

私自身のことを考えると、不真面目な看護学生だったことには違いないが、

看護師として働く覚悟だけはしていた。

私の中に留年や退学という選択肢はなく、最低限必要な努力だけはしていたように思う。

 

別の進路について考え、違う道を選択したのなら、まったく問題はない。

看護職になることだけがすべてではないからだ。

だが、看護教員となった私が出会ってきたのは、道に迷い、苦しみ、もがき苦しむ学生たちだった。

あるいは、現実と向き合うことから逃げ、より一層深みにはまってしまった学生たちだった。

 

これまで関わってきた学生たちの顔が、思い浮かぶ。

そのたびに私は、看護教員としての在り方を考えずにはいられなくなる。

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